近世民衆の念仏者群像 浄土宗の往生論・往生伝にみる…長谷川匡俊著
近世において念仏教団としての浄土宗は、どのように民衆への布教・教化を行っていたのか。幕藩制社会を生きる民衆はどのような信仰を持ち、念仏を称えていたのか――半世紀以上にわたって近世仏教史研究を続ける著者が『往生伝』などの史料を読み解き、当時の人々が共有する理想的な念仏者像を明らかにすることで、近世における僧俗の念仏信仰の在り方に迫る。
著者は長年、浄土宗教団の信仰史の研究に取り組み、教義史や教団史を中心とする従来の仏教史研究に、新しい視点を確立させた。本書は、それらの研究の蓄積を「浄土宗念仏者の理想的人間像」「近世における罪と罰」「生きざまと死にざま―近世浄土宗の女人往生」の三つのテーマに分類、再構成した。本末制度や檀林制度など近世仏教の制度体系と緊張関係をはらみつつも、苦悩を抱える民衆と向き合った僧侶の姿を描き出す。
夜な夜な家族を集めて念仏百万遍を修した尾張藩士小笠原三九郎、慈悲深い性格に加えて日課八万遍におよぶ念仏行を徹底した紀伊国のややなど『往生伝』に描かれる様々な念仏者の生涯を紹介し、仏典や政治権力が求める善人的条件と、念仏の信仰という宗教的条件との兼備という当時の理想的な念仏者像の特徴の一端を示した。
定価2200円、取扱・ディーエスサービス(電話03・5392・0081)。