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子どもの抱える困難の根底にあるもの ― 生きづらさに一人悩む(1/2ページ)

精神科医 松本俊彦氏

2015年11月4日
まつもと・としひこ氏=1967年生まれ。佐賀医科大卒。横浜市立大医学部精神医学教室医局長などを経て2015年から国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長/自殺予防総合対策センター副センター長。この他、東京都中央区・世田谷区の自殺対策連絡協議会委員長・会長なども務める。著書に『自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント』『もしも「死にたい」と言われたら 自殺リスクの評価と対応』等。
自傷経験10代1割

リストカットなどの自傷行為は、いまや思春期の子どもたちのあいだではありふれた現象となっています。私の調査では、10代の若者の1割がリストカットの経験があり、そのうちの約6割は10回以上繰り返していることが明らかにされています。

私は決して自傷行為=精神障害などというつもりはありませんし、若者の自傷行為の全てに精神科治療が必要とも思いません。とはいえ、この1割の自傷経験のある若者がどのような特徴を持っているのかを理解しておくことはとても大切であると考えています。以下に、この1割の若者の特徴について述べてみたいと思います。

まず若年時から飲酒や喫煙の経験者が圧倒的に多いという特徴が見られます。未成年のうちからの飲酒・喫煙は、大人になってから違法な薬物を使うリスクを高めます。薬物に対する「心のハードル」が下がっていくからです。また「その気になれば薬物を入手できるかもしれない」、危ない人間関係が身近にある人が多い可能性も指摘できます。

女子では、明らかに拒食症や過食症といった摂食障害の疑いがある子がちらほら見られます。無茶なダイエットをしたり、反動で過食をしてしまったりする例が明らかに多く見られます。拒食や過食は何カ月、何年も続ければ、様々な内科疾患などの深刻な健康被害をもたらす可能性があります。

セックスの経験者が多いという特徴も見られます。セックスの全てが悪いなどと言うつもりはありませんが、例えば家族ともうまく折り合わず家庭に居場所がない、友だちともうまくいかず学校で居場所がないと悩んでいる女性が、誰かとの「深い絆」ができれば、そこが安心できる居場所になるのではないかと焦り、セックスを許す場合があります。「彼氏から見捨てられてしまう」と考え、仕方なしにセックスに同意する状況はその典型。しばしば幻滅や失望によって心を傷つけます。

またコンドームを使わない人が多く、セックスの相手の数も多い傾向が見られます。避妊しないセックスは、早すぎる妊娠をもたらし、学校での勉強を途中で諦めなければならなくなる事態を引き起こしますし、様々な性感染症の危険を高めます。援助交際のように不特定多数の相手との性的関係を結ぶことは、恐ろしい犯罪被害に遭遇する危険があるでしょう。

「自分には優れたところがない」「自分は誰からも必要とされていない」などと感じて自尊心が低い人が非常に多い、という特徴もあります。また、身近にいる大人たちに対して強い不信感を抱いているという特徴も見られます。

ちなみに、彼らの多くが、インターネット上の「自殺系」の掲示板やサイトにアクセスした経験もあることが分かっています。それをきっかけに「ネット心中」とか「集団自殺」といった悲しい事件が発生することがあります。そのようにして命を落とした若者の中には、様々な悩みを抱えながらも、周囲に相談できる相手がおらず、仕方なく答えを探してインターネット空間をさまよっているうちに、そうした掲示板やサイトに漂着していくような気がします。

以上、自傷経験のある若者の特徴を列挙してみました。確かにその一つ一つは必ずしも精神科で診てもらわなければならないような症状とはいえません。しかしそれらの若者が何らかの悩みやこころの痛み、生きづらさや深い孤独感を抱えていることを示しているとはいえないでしょうか?

薬物に低い抵抗感

実は私自身が一番ショックだったのは、こうした特徴のことではありませんでした。むしろ冒頭の調査のついでに集めた、私の薬物乱用防止講演(薬物の弊害を強調した「ダメ、ゼッタイ」といった感じの内容です)に対する感想でした。

自傷経験のない9割の若者は、「薬物は怖いと思った」「何があっても一生薬物には手を出さないと決心した」「もしも友人が薬物に手を出したなら、何があってもやめさせたい」などといった期待通りの感想を抱いたようでしたが、自傷経験のある1割の若者たちの感想は違っていました。彼らの感想はこうだったのです。

「人に迷惑をかけずに自分を傷つけるだけだから、薬物を使いたい人は勝手に使えばいい」

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