住職はシングルファザー…池口龍法著
明治以降、日本仏教の現実は大きく変わった。宗教法人としての法的位置付けや教団としての組織の在り方、個々の寺院の生活スタイル、檀家や地域社会との関わり方など、あらゆる面で多様化が進んでいる。寺院や僧侶に対する一般の認識も変わり、地域住民と寺との境界がフラットになってきた。
変化は僧侶の側でも進んでいる。「家族寺院」に生まれた子どもにとって、寺は家庭であると同時に、歴史ある文化遺産と宗教伝統の継承者となることを期待されて生きる場所でもある。その意味で、隣の子どもとは全く異なる環境の中で育つ経験を持つ。
寺の住職が人生をどう考え、どんな悩みを抱えているのかを一般の人が知る機会はほとんどない。進学や恋愛、親子の関係、結婚あるいは離婚、子育てなどの様々な経験を、僧侶がどう考え、乗り越えて生きてきたのかを自ら語ることもほとんどない。
しかし多くの檀信徒の悩みや心配事を聞く側にいる僧侶にも、一人の人間としての試行錯誤や葛藤がある。タイトルが示すように、本書は著者のリアルな現実を赤裸々につづっている。「自分なりの生き方で生きたかった」――僧侶である前に人としての生き方を求めて突き進む姿が、読む者に人生への新しい視野を開いてくれる。
定価1056円、新潮社(電話03・3266・5430)刊。