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真溪涙骨の前半生と七里恒順の感化(2/2ページ)

龍谷大教授 中西直樹氏

2023年1月26日 09時15分

新たに「奇日新報」の編集人となった神代洞通も、七里恒順の門下生であり、普通教校の開校とともに教員に就任し、海外宣教会の発足後には、その幹事もつとめていた。反省会本部、海外宣教会本部、新報社(「奇日新報」発行元)は、いずれも西本願寺門前の玉本町の同じ場所に置かれ、姉妹団体の関係にあった。さらに同年11月、「奇日新報」は「開明新報」と改題されて日刊紙となった。

涙骨は、「開明新報」の創刊後しばらくして上洛し、その刊行に関与したようである。同紙の関係者とは普通教校在校時から旧知の間柄で、なかでも編集人の神代は恒順の門下生でもあった。涙骨が92年3月に刊行した『同行の鏡(一名成信記)』という書の奥付には、「編輯者 月輪正遵 福井県平民 京都市下河原通南町第一番戸寄留」と記されており、この頃までには京都に居を移していたようである。

この「開明新報」が手がけた事業に、同年9月刊行の『日本仏教現勢史』がある。この書は、全国の仏教諸団体を調査・編纂したもので、200を超える団体の概要が記されている。その巻頭の「例言」には、涙骨(月輪正遵)が編集に関わったことが記され、著者の一人に「月輪正遵」の氏名があがっている。また本書には、各宗派の碩学や有力居士が題字や賛辞を寄せており、本書の編集を通じて、涙骨は各宗派の有力者の知遇を得たと考えられる。

「中外日報」創刊

「開明新報」も長くは続かなかった。財政面など、多くの苦難に直面し、92年7月に起こった文学寮改正事件では、文学寮の全教員が解職となり、普通教校以来の開明派は宗派から一掃された。やがて海外宣教会が解散に追い込まれた。「開明新報」は「京都毎日新報」と改題され、さらに翌年3月には「本山月報」と合併して「京都新報」と改められ、本山の介入が強まった。

涙骨はどうしていたのであろうか――。涙骨は『日本仏教現勢史』以降、数冊の本を出版し、雑誌への投稿も続けていたようである。特に興味深いのは、95年に「月輪望天」名義で、『仏教最近之敵― 一名、天理教之害毒―』という書籍を出していることである。本書は、大阪の新聞「新浪華」の連載記事をまとめたものであり、「新浪華」は西郷従道を会頭とする国粋主義団体「国民協会」の機関紙であった。涙骨は、この「新浪華」で、後に社会主義者として名を馳せる堺利彦とともに、記者をつとめていた。

一方、96年12月、本願寺派開明派の最後の拠点であった反省会本部が東京に移転した。翌年4月には、隔日刊行されていた「京都新報」が廃刊となった。かわって、7月25日から「教海一瀾」(現「本願寺新報」の前身紙)が創刊されたが、月2号の発行に過ぎず、紙面も宗派広報誌としての性格の強い雑誌であった。特定の宗派に偏らない仏教ジャーナリズムが消滅した京都で、涙骨は「開明新報」の伝統の復活を期して、同年10月1日に「教学報知」(1902年1月「中外日報」と改題)を創刊したと考えられる。

師恒順の教え

ところで、常光浩然によれば、涙骨は手刷り新聞を発行するなどの行為が咎められ、龍華教校を放校処分になったとされるが、恒順は涙骨のことをどのように考えていたのであろうか――。涙骨は、後年次のような回想を残している。

「私は足かけ二年間、七里和上の膝下に養はれたものだが、持つて生れた悪性は容易に改まらず、真に難治難救の悪人と見られてゐた。それでも時には和上は膝下近く呼ばれて

人間の一生は汚いものだ、一々裸体ひんむいたら満足な顔して如来さんの前に出られる資格のあるものは一人もゐなからう、それでも仕方ない、いかにどろくと濁り果てた中にも清き一線だけは、たとひ微かでも必ず美しく貫けよ、それが人間に生れた所詮でもあり念仏喜ぶ甲斐でもある。

と教示された。之くらゐ私の一生を通じて私の頭蓋骨に刻み付けられた鋭い活人剣はなかつた。斯く申せば何だか我身を飾るやうで愧かしいが、私が殆んど過ぐる半世紀近く世にもはえない難事業に幾度となく自殺までを思ひながら春風秋雨の一人旅を続けて曾て傍観をふらず路草を食わはずに裏の細道をのみ一向専念に歩んで来たのも、一にこの精神的基礎を固められた強い指導力の賜である」

「奇日新報」の発行を強く支援した恒順は、仏教ジャーナリズムの必要性を認識し、涙骨に期待していたのかもしれない。しかし、その事業を継続することの困難さも熟知して、右のような言葉を涙骨に贈ったのであろう。涙骨も「中外日報」の発行でさまざまな苦難を重ねるなかで、恒順の教えが身に染みたようであり、1938(昭和13)年5月の恒順の37回忌に際して、墓参のため50年ぶりに万行寺を訪れている。

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