役員欠格条項改正による寺院への影響(1/2ページ)
弁護士 大島義則氏
2019年、成年被後見人・被保佐人であることを「欠格事由」として定めていた各種法律を全面的に見直す通称「成年後見制度適正化法」が成立した。この法律に基づき187本の法律の欠格条項が見直し対象となり、原則として該当する欠格事由が削除されることになった。
欠格事由とは、一定の資格・免許・業許可等に必要な適格性を欠く事由をいう。欠格事由に該当すれば当該資格等が認められず、あるいは当該資格等を失う。従来は、公務員、士業、法人役員、営業許可、法人営業許可等に関する各種法律において、成年被後見人・被保佐人の地位にあることが欠格事由として定められていた。これにより認知症や知的障害になった方が成年後見制度を利用した際に、一定の資格・職業・業務等から一律に排除される状況になっていた。障害者が健常者と同様に生活していけるようにするノーマライゼーションの理念や、すべての人々を排除せず包摂する社会を目指すソーシャルインクルージョン(社会的包摂)の理念に照らすと、欠格条項の見直しが急務であった。
19年の成年後見制度適正化法は、こうした状況に鑑みて、成年被後見人等の人権を尊重し不当な差別を防止することを目的として、欠格条項を見直すものである。この見直し対象となった187本の法律の中の1本に、宗教法人法がある。
宗教法人法は、「成年被後見人又は被保佐人」の地位にあることを宗教法人の代表役員、責任役員等の欠格事由として定めていた(宗教法人法22条2号)。しかし、19年に成立した成年後見制度適正化法に基づき当該欠格事由が削除され、その代わりに「心身の故障によりその職務を行うに当たつて必要となる認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者」であることが欠格事由とされた。形式的に「成年被後見人又は被保佐人」であるか否かではなく、職務を行うために必要な認知・判断・意思疎通能力があるかを個別的・実質的に審査する仕組みへと変更されたのである。
宗教法人法改正前は、例えば、障害や高齢により認知機能が低下した者が成年被後見人や被保佐人になった場合、宗教法人の代表役員になろうとしても欠格事由に該当するため代表役員になることができなかった。また、代表役員在任中に成年被後見人又は被保佐人になった場合、代表役員を辞めなければならなかった。
しかし、宗教法人法上の役員欠格事由が改正されたことにより、成年被後見人や被保佐人であったとしても役員になれるようになり、また成年被後見人や被保佐人になったとしても役員を退任しなくて済むようになった。
これにより成年後見制度の利用を躊躇する必要はなくなり、ノーマライゼーションやソーシャルインクルージョンの理念の実現に一歩近づいた。
各寺院の寺院規則では、代表役員等の欠格事由が定められていることが多い。寺院規則において「成年被後見人又は被保佐人」を役員欠格事由として定めている場合に、寺院は寺院規則を変更する必要があるのだろうか。
仮に寺院規則において「成年被後見人又は被保佐人」を役員欠格事由として定めていたとしても、改正後の宗教法人法の欠格事由が寺院に対して直接適用される。そのため、寺院が直ちに寺院規則の変更をする義務まではない。