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コロナ禍と宗教界―国際宗教社会学会発表から(2/2ページ)

北海道大大学院教授 櫻井義秀氏

2021年10月7日 10時06分

5人の発表を通じて三つの宗教類型が見いだされた。

①コロナ禍で集会や会合への参加といった宗教活動に影響を受け、活動規模が縮小したままになっている伝統宗教。
 ②直接的参加・対面的交流をオンライン参加とSNSなどでの交流に切り替えて活動の規模を維持する伝統宗教と新宗教。
 ③パンデミックに宗教的意義を見いだし、信者に信仰強化を働きかけるマイノリティの宗教。

以下、順に説明していこう。

[災禍で縮小する宗教]

新型コロナウイルスが感染拡大し始めた当初、政府や一般社会、宗教団体も対応の方針が定まらなかった。そのために、イスラームのモスク(インドネシアなど)やキリスト教のメガ・チャーチ(韓国など)での礼拝、今年に入ってもヒンドゥー教の祭礼などを通常通りに行い集団感染した例がある。その後、政府のロックダウンやソーシャル・ディスタンス方策が徹底されると集会自粛に転じた。

日本の伝統仏教は、4次にわたる緊急事態宣言や蔓延防止法措置、常態化した自粛要請に従い、年中行事を一般参加なしで行ったり、葬儀・法要も規模を縮小したりした。特に、関東の都市部で顕著であり、関西や地方では法事そのもののとりやめはないものの、親戚の集まりやおときはなくなった。

2年続きで中止してしまえば、コロナ後元通りの形になると予想する関係者は少ない。人々の意識が儀礼の簡素化と利便性に向き、人が参集しないことの中長期的なデメリットまで思い至らないからでもある。個人化に対応した伝統宗教のあり方が今後求められるだろう。

東欧のハンガリーでも初期の対応は変わらなかったが、礼拝のオンライン化により集会参加者の激減を食い止めていると報告され、アメリカやヨーロッパにおいてキリスト教会の礼拝は一般的にYouTube他でオンライン化の対応が素早くなされた印象がある。

イラン国内外でペルシャ語教会がオンライン上で礼拝を持ち、牧師が「パンデミックは神が与えた試練であり、本物のキリスト者になる機会として生かすべし」と説教しているという。

[信仰強化を働きかける宗教]

スペインからは、同国に限らないヨーロッパの特徴として、インターネット上でパンデミックに対する科学・医学的見解を疑う陰謀論的言説やワクチンに関するフェイク情報が拡散され、それらが、人々の不安を燃料として拡大しつつあると報告された。ヨーロッパでは第1波と第2波で重症者・死者が多数出ており、専門家の知見や医療へ期待が持てない状況があった。

日本でも富士大石寺顕正会では「コロナ禍は『仏法より事起こる』もの」であり、新型コロナは一国総罰――御本尊を怨むゆえ――であり、「大聖人を怨む総罰は全世界に及ぶ」のであって、「ワクチンも対症療法」に過ぎず、「国立戒壇建立」と「広宣流布」以外に根本の救済はないと説く(顕正新聞21年2月5日付)。謗法払いは創価学会でも折伏に用いられたように、真実の教えを守らないがゆえの障り・罰という宗教ではよく見られる「苦難の神義論」である。

この話を紹介した時に、ドイツの研究者から東日本大震災の時はどうだったのかと質問を受けた。津波や地震、感染症のような災禍では、老若男女、信仰の有無や個人の行いなど関係なく不幸に直面する。当人はもとより遺族の悲哀に対して多くの宗教者は沈黙するしかなく、市井の人々同様、被災地支援のボランティア活動に汗を流さざるを得なかったと応えた。

コロナ禍においても社会支援を継続する宗教団体は多く、日本全体、いや世界全体が被災地になってしまったために何をどうすべきか試行錯誤を重ねている宗教者も多い。香港では、感染初期に不足したマスク配布をキリスト教会、仏教会、道教団体が率先して行い、それと同時に「普通選挙」や「逃亡犯条例改正案の完全撤回」をめざした学生・市民による民主化デモに対しても、積極的な支援活動を行ったキリスト教会が多かった。香港では、コロナ禍という健康に関わる災禍以上に、国家安全維持法による民主活動家の逮捕や抑圧に宗教界は鋭敏になったのである。

これらの報告を聞くと、日本では一部の新宗教を除き、コロナ禍では総じて宗教活動が縮小し、大半の教団においてコロナ後の活動再開を待ち望んで耐えている印象が強い。しかし、残念ながら元のようには戻らない。個人化・世俗化の趨勢はここで一段と強まった。社会的信頼の回復や社会的孤立の軽減――ソーシャル・キャピタルの醸成――に再び宗教が関わることができるかどうか、コロナ禍およびコロナ後の日本宗教には問われるだろう。

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