成年後見制度は宗教にどのような影響を与えるのか(1/2ページ)
広島文教大非常勤講師・浄土真宗本願寺派専正寺住職 深水顕真氏
第三者が個人の法的な権利を代理する場合、従前の信仰行為はどのように担保されていくのだろうか。ここでは、昨年11月1日の第93回日本社会学会での研究発表をおこなった拙論「成年後見制度における宗教的寄付行為の扱いについて」をもとに、成年後見制度が宗教に与える影響を考える。
民法の改正によって2000年に導入された成年後見制度は、認知症や精神障害の人物に対して、家庭裁判所が選任した後見人がその人物の財産や法的な権利を保護する仕組みである。
つまり後見人が、その人物の印鑑と通帳を預かり、代理して契約や支払いを行うことになる。裁判所の統計では19年現在の成年後見制度の利用者は、類似の制度を合わせて22万人となっている。そして世話を行う後見人等は、弁護士、司法書士、社会福祉士など親族以外の第三者が8割を占めている。
ではこの後見人は「宗教寄付」というその人物が行ってきた信仰行為にどう対応するのだろうか。
裁判所のホームページでは、成年後見制度の一種である「保佐」の解説ビデオにおいて、壺や水晶玉などの契約を取り消す場面が示唆され、「霊感商法」などからの被害救済をその目的として暗示している。
一方、これまで一般論として社交的儀礼としての香典等は許容され、また菩提寺に対しての布施や墓地管理費などは支出として許容されると考えられてきた。
問題は、この取り消しの対象となる「霊感商法」と、許容される「社交的儀礼」や「布施」など「宗教寄付」の基準である。つまり第三者の司法書士や弁護士は、後見人としてどこまで本人の宗教心を汲み取るのだろうか。アンケートとインタビューを通して、それら第三者が「宗教寄付」という信仰行為にどのような対応をしているかについて調査を行った。
後見人等に選任される親族以外の第三者のうち、司法書士は37%を占め最も多い。そこで、司法書士の成年後見事務サポート組織、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートに対して「宗教寄付」についてのアンケート調査を20年8月に行い、併せて司法書士へのインタビューも行った。
このアンケートでは司法書士である回答者が後見人となった場合、以下の状況をどのように判断するか四つの質問を行った。また前提として、保護される人物は特定の宗教に所属しており、相当の「宗教寄付」をこれまで行ってきたものとした。
調査票は、全国都道府県にある50の支部に郵送し、10の支部より回答を得ることができた。またそれぞれは、支部の意思ではなく代表者の個人的見解と注記された。
質問1:毎年の檀家会費寄付はどの程度まで許容されるのか
質問2:境内整備などの記念事業等、通例を超えた寄付はどの程度まで許容されるのか
質問3:本人の信仰が反社会的カルトや霊感商法などの場合、どのように対応するのか
質問4:質問3の判断基準は存在するのか
詳細な質問や回答内容は学会発表資料を参照いただきたい。ここでは、質問への個々の回答の傾向をまとめる。
まず、後見人等による代理的な支出として許容される「宗教寄付」は年会費的なものは1万円程度、特別なものは数万円が許容範囲とされた。また、「宗教寄付」の対象がカルトや霊感商法であるかの判断については、マスコミ報道やインターネット上の情報など社会的な基準をもとに寄付の可否を判断する場合と、数万円という金額の上限を歯止めに信仰内容の判断に介入しない場合に二分された。