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後を絶たない「カルト被害」―地下鉄サリン事件から25年⑤(1/2ページ)

弁護士 紀藤正樹氏

2020年10月16日 09時52分
きとう・まさき氏=1960年、山口県生まれ。弁護士。リンク総合法律事務所所長。日本宗教学会、宗教法学会、「宗教と社会」学会会員。著書に『決定版 マインド・コントロール』(アスコム)、『宗教トラブル110番』(民事法研究会)、『カルト宗教 性的虐待と児童虐待はなぜ起きるのか』(アスコム)など多数。
1 死刑執行後のオウム真理教

オウム真理教の教祖であり、一連の事件の首謀者である松本智津夫とその弟子たち13人の死刑が2018年7月に執行されてから2年が経過した。一連のオウム真理教事件では、起訴された事件だけでも27人以上が死に至らされている。しかし死刑執行後もなお、アレフやひかりの輪などの残党が残り、活発に活動を続けており、被害者や被害者の遺族などを苦しめている。

オウム真理教事件では、教団内の「信者収奪型」の事件を放置したことが、後に「社会妨害型」「社会攻撃型」のサリン事件につながった(拙著『カルト宗教 性的虐待と児童虐待はなぜ起きるのか』70ページ以下)。

簡単に述べると、教団にとってはじめての死亡事件は、1988年9月下旬ころに発生したMさん事件である。修行中の在家信徒Mさんが奇声を発するなど異常な行動に及んだことから、Mさんに水を掛けるなどしていたところ、誤ってMさんを死亡させた。教団は、溺死したMさんを焼却し遺灰を精進湖に捨てた。この事件は立件されなかったが、その後、信者に対する殺人事件として、89年2月上旬、Tさん殺害事件が発生した。Tさんは、Mさん事件に関わっていた。脱会しようとしたところ、教団は、Mさん事件の発覚を恐れ、Tさんを殺害した。いずれもこの時期のものは、内部の信者への事件であった。

初めて外部の敵対者に対する殺人事件として発生するのが、坂本弁護士一家殺害事件(殺人)であり、89年11月4日、オウム真理教被害者の会を支援していた弁護士とその妻子3人を自宅で殺害した。この事件をきっかけに、教団は外部者への攻撃をも視野に入れた武装化に走ることになる。こうして炭疽菌、VX、サリンと、大量殺戮を目指す武装化に邁進し、世界初の化学テロと評価できる松本サリン事件、地下鉄サリン事件に至る。

2 日本の裁判の到達点

次に日本の裁判の到達点を簡単に整理する。宗教団体が、宗教団体であるという理由で、他の団体や個人に優越する権利を持つことはない。他の個人や団体について許されない行為が宗教活動の名のもとに特別に認められることはない。日本の最高裁も「私人相互間において憲法20条1項前段及び同条2項によって保障される信教の自由の侵害があり、その態様、程度が社会的に許容し得る限度を超えるときは、場合によっては、私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって、法的保護が図られるべきである」と判断している(1988年6月1日、いわゆる「自衛官合祀拒否訴訟」)。

この意味は、宗教団体が、宗教的動機や信教の自由の発露として、宗教活動を行ったとしても、他の市民との関係性においては、その宗教活動の「態様、程度が社会的に許容し得る限度を超えるとき」は、不法行為等の規定によって、一定の制約を受けることがあるということである。

このことから、宗教的動機や宗教活動に伴う事件であっても、一連のオウム真理教事件では刑事事件として有罪となり、また民事事件でも、たとえば統一教会(現「世界平和統一家庭連合」)の布教活動や霊感商法などの資金獲得活動も「不法行為」にあたり違法とされている。

信者勧誘の違法性を認めた初の判例である広島高裁岡山支部判決(2000年9月14日、判例時報1755号93ページ)は、統一教会によるいわゆる「マインドコントロール」による勧誘についての違法性について、「被控訴人(統一教会)の信者組織のメンバーが周到に計画したスケジュールに従って、有機的に連携してなした一連の行為が宗教的行為と評価しうるとしても、その目的、方法、結果が社会的に相当と認められる範囲を逸脱しており、教義の実践の名のもとに他人の法益を侵害するものであって、違法なものというべく、故意による一体的な一連の不法行為と評価される」との判断を示している。

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