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後を絶たない「カルト被害」―地下鉄サリン事件から25年⑤(2/2ページ)

弁護士 紀藤正樹氏

2020年10月16日 09時52分
3 カルト対策の貧困と課題

殺人肯定の考え方は、人権侵害の最たるものである。そしてカルト内においては、人権侵害の萌芽は、信者への人権蹂躙、収奪から始まることがほとんどである。そして人権蹂躙は、労働収奪、性的収奪、児童虐待などの発生が、最初のメルクマールである。

オウム真理教事件も典型的な症例を示しており、まずMさん事件がおこり、その後Tさん事件、坂本弁護士一家殺害事件と、信者収奪型から悪質化・社会攻撃型に変容していった。信者への人権侵害への感覚麻痺は、次第に外部者への人権侵害の感覚麻痺につながり、最後は、テロや破滅的暴発に至った。

カルトの暴走を止めるためには、こうした負の連鎖を止める仕組みを構築する必要があり、信者への労働収奪、性的収奪、児童虐待などについて、外部からのきちっとした社会的、法的、行政的なメスが入る仕組みが必要である。つまり人権侵害の萌芽に対する対処の多くは、法の適正な執行の運用で解決する問題でもある。

そして本来の在り方でいえば、カルト被害の事件は、刑罰で対応できるものは刑罰で対応すべきであり、行政で対応すべきものは行政が対応すべきである。民事的救済は、被害者が自らの費用をかけて行う自己責任型のものであって、国民の安全・安心の観点からは、最後の手段とされるべきである。カルト問題発生の最初のメルクマールである労働収奪、性的収奪、児童虐待などの発生に、刑事的手法や行政的手法が適切に行われれば、カルトの芽を早期に摘むことが可能である。

しかし日本は、宗教被害の救済が、刑事規制上も行政規制上も、異例に野放しされてきたという背景があり、そのため被害者の自助的努力により、諸外国に比しても民事救済の判例群が多数生じたという面がある。他方、それは日本の被害者の不幸を物語っている。オウム真理教による一連のサリン事件も、このような背景のもとに惹起され、テロによる死傷者も含めて、多数の被害者が生じた。

その意味で、日本は、カルト被害の救済に対する姿勢がなお不十分であり、途上であるというべきである。オウム真理教事件を体験した以降も、日本のカルト対策はあいかわらず貧困な状態にあり、それが現在の後を絶たない日本のカルト被害問題の原因となっている。

実際、松本、地下鉄サリン両事件での死者だけでも20人以上、死傷者は約6千人以上にも上る。世界でも未曾有のこの事件について、日本は、政府として、未だに総括的な調査もしていないし、報告書も作成していない。立法府である国会も特別な調査委員会すら設置していない。なぜ事件がおきたのか、そしてどうすれば今後二度と事件をおこさないですむのか、という問いに対し、日本としての答えが、未だにない状態にある。福島原発事故においては、政府事故調も国会事故調も設置され、報告書が作成されたのに、際立つ違いがここにある。

一連のオウム真理教事件の刑事裁判で、真相は明らかになっているというのは間違いである。たとえば殺人罪であれば、捜査側は有罪の範囲の証拠しか集めないし、そうした証拠しか裁判所には提示されない。仮に内乱罪で起訴されれば別の証拠が出てくる可能性もある。松本智津夫ら実行犯が全員死刑になったことで真実の口も閉ざされ、オウムの真実は、もはや藪の中というのが現状である。

他方、2018年6月8日、消費者契約法が改正され、消費者により取り消しができる消費者契約の類型、つまり違法性のある消費者契約の類型として「霊感商法」が入れられることになった。法律に「霊感」という文字が入って「霊感」が法律用語となったのは日本で初めてのことであり、19年6月15日に施行された。民事という枠組みではあるが、被害者救済に役立つことが期待される。

カルト対策は、「信者収奪型」の事件にいかに向き合うかが大切である。信者の自己責任として放置しない法制をどう構築していくのか、二度とオウム事件を引き起こさないためにも、日本の未来に託された課題である。

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