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オウム死刑囚・元信者にとってのオウム事件―地下鉄サリン事件から25年②(1/2ページ)

フォトジャーナリスト 藤田庄市氏

2020年9月29日 11時58分
ふじた・しょういち氏=1947年、東京生まれ。フォトジャーナリスト。日本写真家協会会員。宗教取材に従事。カルト問題の著作として『オウム真理教事件』(朝日新聞社)、『宗教事件の内側』(岩波書店)、『カルト宗教事件の深層 スピリチュアル・アビュースの論理』(春秋社)などがある。ほかに写真集『伊勢神宮』(新潮社)、『修行と信仰』(岩波書店)、『現代山岳信仰曼荼羅』(天夢人。12月刊行予定)など多数。

オウム真理教事件(1995年発覚)の本質は徹頭徹尾、宗教を根源としていたことである。その骨格だけを論じる。

(一)血盟団事件と

まず歴史に事件を重ね合わせてみよう。

新実智光元死刑囚(以下、新実)は、教団初の殺人事件である田口事件(89年2月)の動機について自分の法廷でこう言い放った。

「最大多数の最大幸福のために殺す」

「一殺多生を肯定した」

一殺多生。32年に政府要人テロを起こした法華信仰の血盟団の言葉である。

さらに新実は、中川智正元死刑囚の法廷ではこう言い切った。

「(オウム)事件は大いなる菩薩の所業である」

一方、早川紀代秀元死刑囚(以下、早川)は自ら手掛けた殺人を「慈悲殺人」と意味づけた。

血盟団はどうだったか。井上日召は銃撃を「大慈悲心」、小沼日正は「殺人は如来の方便」、古内日栄は自分の行為を「菩薩行」と位置づけた。日召、日正、日栄はホーリーネームだった(大谷栄一『日蓮主義とは何だったのか』講談社)。

血盟団事件の信仰の論理や熱情について検証や批判はほとんどなされていないようだ。そして、六十数年後に起こされたオウム真理教事件の宗教的動機、すなわち事件と信仰の有機的結合の解明もほとんどなされていない。

(二)麻原彰晃という存在

オウム真理教教祖・麻原彰晃は暴力(傷害罪)と詐欺(ニセ薬による薬事法違反)の犯罪的性向に、強烈な支配欲、妄想が融合し、スピリチュアル・アビュースを仕掛けて信者を自発的積極的隷従へと巧みに導いた宗教カリスマであった。

彼はヨガ教室を始めて間もない85年、やがて無差別大量殺人へ向かう使命感を強く与えられた。「神軍を率いて戦え」。この神託の実現を根本動機として麻原はオウム真理教を構築してゆく。そこには1980年代~90年代前半の宗教・精神世界・オカルトブームという社会的土壌があった。当時、流通していたヨガ、チベット仏教、ヨハネの黙示録、ノストラダムスなどを麻原は自分本位の興味と論理に従い、勝手につなぎ合わせ、苛酷な修行を内在させた「ハイパー宗教」(井上順孝)に仕立て上げた。そのうえ、これらパーツは「ジャンク(がらくた、まがいもの)」(村上春樹『アンダーグラウンド』)だった。94年には違法薬物まで用いた。麻原がきちんとした手続きを踏んで師につき、修行し、学んだものはひとつもない。時代的に忘れてならないのは、権力、行政が、野放図な「信教の自由」に自己呪縛されていたことである。

(三)出家・修行、麻原の霊的隷従者に

「解脱」。これがオウム真理教信者の出家動機である。

広瀬健一元死刑囚(以下、広瀬)にとって、その道筋の起点は「生きる意味は何か」という高校生時代の疑問だった。また、大学院進学を断念し出家した女性の後ろ姿を見送った元恋人は、「真理を求めてゆく姿だった」と親に告げた。

そうした、親子の縁を切り、全財産から生命(遺書を書く)まで麻原に布施した出家者はどうなったか。

彼らの日常生活すべてがグル麻原に心身とも回収される修行とされた。オウム食を口にする時は味わうのではなく麻原を観想した。ワークと称したそれぞれの作業は麻原から与えられた修行だった。

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