宋代禅国際学会―東アジアの一仏教伝統における学際的視座(1/2ページ)
駒澤大教授・禅研究所所長 石井清純氏
パリのコレージュ・ド・フランス及びソルボンヌ大学を会場として2月27~29日、宋代禅の国際学会が開催された。Centre d' études interdisciplinaires sur le bouddhisme(CEIB=学際仏教研究所)と駒澤大学禅研究所との共同開催で、日仏交流の宋代禅の学術大会として初の試みである。
発起人は、チャオ・ジャン博士(École Pratique des Hautes Études〈EPHE=フランス国立高等研究実習院〉)。駒澤大に国費研究員として滞在したことが、このたびの学会開催の契機となったことから、その際の受け入れ教員であった私が日本側発起人として名を連ねたが、実質はジャン博士とディディエ・ダヴァン国文学研究資料館准教授の尽力によって開催されたものであった。
発表者は日本から6人、米国から2人、地元フランスから6人の計14人。中国宋代禅の研究を中心に、中国にとどまらず、韓国・ベトナム・日本から、さらには20世紀における欧米への展開まで、幅広い視点から考察する会となった。新型コロナウィルスの世界的蔓延により、厳しい行動規制を強いられたが、幸い参加者は40人を超え、専門的な学術大会としては盛況裏に終えることができたといえよう。
禅宗は中国の唐代に興り、宋代に大きな発展を遂げて、東アジアの周辺地域に伝播した。東アジア各国で今日なお生き続けている禅の伝統も、20世紀に日本から欧米に広まったZENも、その直接の源流は、実は宋代の禅であった。しかし、その重要度に比べ、宋代禅の研究は、これまで決して充分であったとはいえない。
中国禅宗の研究は20世紀に飛躍的に進歩したが、その主力は新出の敦煌文献を駆使した初期禅宗史の研究と、『祖堂集』を中心とした唐五代の禅宗文献の解読に注がれていたのである。日本のみならず、フランスでも、かの有名なポール・デミエビルの『ラサの宗論』は前者の、仏訳『臨済録』は後者の分野に属するものであった。その中にあって、今回参加された石井修道・駒澤大名誉教授の『宋代禅宗史の研究』(大東出版社、1987)は先駆的で重要なものであったといえる。
しかし、20世紀の終わり頃から、宋代禅を中国禅の完成形とする視点が芽生え始めた。日本や中国だけでなく、欧米でも、多くの著書や論文が発表され、若手の研究者たちも、学位論文の主題に宋代以降の禅を選ぶことが多くなってきたのである。
今回の国際学会は、そのような動向を受け、東アジア各地に展開し、今日まで伝わる禅の基盤となった宋代禅の意義を多角的に再評価し、各国の禅宗研究の国際的・学際的に交流せしめることを目的として開催された。