浄土宗の現状と今後の対応 ― 過疎地寺院問題≪3≫(1/2ページ)
佛教大教授 大谷栄一氏
2015年から4年間、浄土宗滋賀教区檀信徒大会で行われたパネルディスカッション「共に考えるお寺の未来」のコーディネーターを務めさせていただいた。檀信徒、僧侶、寺庭婦人がそれぞれの取り組みを発表し、お寺のあり方が熱心に議論された。
大会前の打ち合わせの中で、印象に残った言葉がある。「寺離れ」である。「自分たちの代まではお寺さんとの結びつきは強いが、自分の子どもや孫の代にはどうなるか不安である」、と檀信徒の方々が口にしていた。檀家の「寺離れ」は新しい言葉ではない。しかし、人口減少や地方の過疎化が進み、墓じまいや直葬が増加しつつある現在、「寺離れ」は加速していくものと思われる。
本稿では浄土宗の過疎地寺院問題の現状を紹介し、今後、どのような対応が求められるのかを提起することで、「お寺の未来」を展望したい。
浄土宗の過疎地寺院問題は他宗派と比べて、どのような特徴を持つのだろうか。
五大宗派(曹洞宗・浄土真宗本願寺派・真宗大谷派・浄土宗・日蓮宗)の過疎地寺院の実態を比較した相澤秀生によれば、その立地場所に注目すると、曹洞宗と本願寺派は「全国網羅型」、大谷派・浄土宗・日蓮宗は「地方集約型」と類型化できる。相澤の示したデータによれば、浄土宗は関東・東海・近畿・九州に基盤を持つ。
全国の寺院7万8596カ寺(14年度時点)のうち、過疎地寺院の割合は2割強(1万7101カ寺)だが、過疎地寺院の7割弱がこの5宗派で占められるという。5宗派のうち、自宗派での過疎地寺院の割合が最も高いのが曹洞宗の30・2%(4405カ寺)。浄土宗は最も低い15・6%(1114カ寺)である。相澤は、全国網羅型の教団の方が過疎地寺院の割合が高いと指摘している(「宗派間比較からみた過疎地寺院」相澤・川又俊則編『岐路に立つ仏教寺院』法藏館、19年)。たしかに、浄土宗の割合の低さが目につく。しかし、問題がないわけではない。
浄土宗の過疎地寺院問題の現状をさらに確認しよう。
浄土宗総合研究所が編集した研究成果報告書『過疎地域における寺院に関する研究』(以下、報告書)が16年3月に刊行された。本研究所のプロジェクトでは、08年度から宗内の過疎地域寺院の調査・研究が着手され、15年まで実地調査と聞き取り調査が実施された。12年には浄土宗総務局の寺院問題検討委員会と連動し、過疎地域寺院を対象としたアンケート調査も行われている。
筆者は本調査に関わっていないが、この貴重な報告書にもとづき、その調査結果の一部を紹介させていただく。
浄土宗寺院7032カ寺(『浄土宗寺院名鑑』平成25年版)のうち、国によって過疎地域と指定された地域にある浄土宗寺院数は1065カ寺、全体の15・1%である(前述の相澤のデータとほぼ同じ)。半数以上の寺院が過疎地域にある教区は、7教区(石見・北海道第一・秋田・北海道第二・大分・長崎・愛媛)である。
過去20年間で檀家数が減少したと答えた割合は約6割を数えた。また、過疎地域は非過疎地域と比べて、住職の常住する正住職寺院の割合が少なく、兼務寺院・無住寺院の割合が多いことも指摘されている。過疎地域寺院の正住職寺院が約7割に対して、非過疎地域は約8割を数える。
兼務寺院に対して、正住職寺院の方が日常的な法務や教化・社会活動が活発に行われていることは多くの研究者が指摘するところである。私が15年に浄土宗滋賀教区で実施したアンケート調査(470カ寺対象、有効回答数40・0%)でも、兼務寺院は正住職寺院に比べて日常的な法務、教化・社会活動の実施率が相対的に低く、檀家との関わりも弱い傾向が明らかになった。