浄土宗の現状と今後の対応 ― 過疎地寺院問題≪3≫(2/2ページ)
佛教大教授 大谷栄一氏
つまり、檀家数の減少はもちろんのこと、兼務寺院・無住寺院の増加も寺院活動の衰退を招くことにつながり、ひいては寺院の存続にも関わる(ちなみに、浄土宗では04年に寺院問題検討委員会が設置され、兼務寺院問題に対する対応が図られてきた)。
報告書では、聞き取り調査の結果も掲載されている。今後の檀家数の推移について、「近所の檀家はほぼ高齢者世帯で、息子は県外に在住。今の高齢者が亡くなったら、檀家が急減する可能性がある」との声が紹介されている。まさに、「寺離れ」の危険性が寺院側から表明されていることがわかるだろう。
今後、世帯数が減少することで、絶家などによる「檀家の自然減」は食い止める術はないが、転出等による「檀家の社会減」については、遠方の檀家に積極的に働きかけ、離檀を防ぐ努力が必要である、と報告書は述べる。たとえば、島根県西部の石見教区は全51カ寺がすべて過疎地域にあるが、その働きかけを行っている。07年から教区を挙げて「離郷檀信徒」のためのお盆「東京法要」を始め、現在では若い僧侶も出仕し、東京で世代を超えた僧侶と檀信徒の交流が実現している(『中外日報』18年2月2日)。
「檀家の社会減」への対応として、若者世代への働きかけも必須であろう。
ここで、第7回浄土宗宗勢調査の結果に目を転じてみたい(17年実施、7010カ寺対象、回収率96・9%)。檀家に対する法要や行事の案内、寺報の送付などの働きかけの有無についての質問がある。そのうち、「寺院近隣に住んでいる檀家で、独立して住んでいる子ども世代の家の場合」への回答は、「まったく連絡を取っていない」35・0%、「すべての檀家に連絡している」21・8%、「一部の檀家に連絡している」33・1%、「その他」10・1%という結果になっている(『浄土宗宗報』平成30年12月号)。
すなわち、独立して住んでいる子ども世代には「まったく連絡を取っていない」割合が一番高いのである。檀家の子ども世代の「寺離れ」を垣間見ることができる。寺院の活動に若者世代の関わりが薄いことはよく指摘されることだが、遠方の檀家への働きかけに加え、(場合によっては遠方に)独立して住む檀家の子ども世代への働きかけも(過疎地か否かにかかわらず)重要であろう。
寺檀関係の維持・継続が寺院存続の必須条件であることはいうまでもない。しかし、寺院は檀信徒のためだけのものではないだろう。すなわち、地域に寺を開くことの重要性が問われる。
ここで、滋賀県東近江市のある浄土宗寺院の取り組みを紹介したい。関正見師は1995年に田園地帯の50軒弱の集落にある正福寺に住職として着任した。
関師は、夫婦で2003年からサラナ親子教室(浄土宗総本山知恩院のおてつぎ運動の一環)による子育て支援に取り組み始めた。最初6組で始まったが、しだいに評判を呼び、数年で本堂は満杯になり、ひと月に何回も教室を開くようになった。そのことで、寺院や寺院を取り巻く地域の雰囲気も変わり、檀家の枠を超えて、広く地域の住民が寺の門をくぐるようになった。「風通し」がよくなったという。
過疎化、少子化に悩む地域で(檀家との信頼関係をベースに)教室=寺院を起点とした人間関係の広がりが作られたのである(関「子育て支援―サラナ親子教室の試み」大谷編『ともに生きる仏教』ちくま新書、19年)。
第7回浄土宗宗勢調査では、「過去一〇年間に檀信徒以外の方に地域社会の行事、催し物などに寺院を開放したことがありますか」との質問に、「ある」が39・6%に対して、「ない」が57・6%を数えた。関師の取り組みと「地域社会の行事、催し物」は異なるが、檀信徒以外との人間関係の構築は、地域や寺院の活性化には欠かせないであろう。
今後、過疎地寺院問題の深まりを避けられない以上、さまざまな場所に住む多世代の檀家、檀信徒以外の地域住民の「寺への関わり」を増やすこと。「お寺の持続可能な未来」のためにさらなる工夫と挑戦が求められている。