PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
2025宗教文化講座
PR
2025宗教文化講座

存在を支える「まなざし」の考察(2/2ページ)

時宗教学研究所所員・一向寺住職 峯崎賢亮氏

2019年4月5日
(2)不在者からの「まなざし」

レインのいう補完性は、お互いの「まなざし」によって支えあっているにしても、常時視線を交わしあっているわけではない。ただ、相手が不在の時でも、相手からの「まなざし」が甦るからこそ、自らの存在を支え続けているのである。例えば実際に視線を交えていた時には意識しなかったのに、相手が不在となった時、ある種の感情を呼び起こす「まなざし」となって甦る。相手から自分に向けられた「まなざし」は、自らの体験や記憶の中では重要な位置を占めていて、相手が不在の時に、不在者からの「まなざし」として意識されるのである。記憶の中に残る、この不在者からの「まなざし」こそが、あらゆる状況において、私という存在を支えている「まなざし」なのである。そして死者は、常に不在者である。私という存在を支えている、仏となった死者からの「まなざし」もまた、不在者からの「まなざし」に他ならない。

(3)仏となった死者からの「まなざし」

日本人は特に、死者からの「まなざし」を意識しながら生きている。「あの世にいる親父が、こんな俺の姿を見て、きっと嘆いているだろうな」といった嘆きのことを、死者からの叱責という。筆者が研修医時代に主治医をした、ある終末期の患者は「死ぬのが怖くないと言ったら嘘になるが、でも少し期待もしている。あの世にいったら、戦死した戦友たちに、あの後日本がどうなったか、話してやるんだ」と話していた。

人は何かを契機にして、死者からの「まなざし」が甦る。だからこそ、死者からの「まなざし」を呼び起こすアイテムが重要なのである。大災害後、被災者が必死になって位牌を捜すのは、日本人にとって位牌は、仏となった死者からの「まなざし」を甦らせる大切なアイテムだからであろう。

生者としての「あなた」からの「まなざし」と、死者となった「あなた」からの「まなざし」は、その感じ方が異なる。それは、必ずしも親しい間柄ばかりではない。図らずも傷つけてしまった相手や、逆に自分が傷つけられた相手が生きている間は、どれほど悔やんだり、怨んだりしても、彼らが死者になると、生きている時とは異なった感情が湧いてくる。生者であった時にはあまり意識しなかったその「まなざし」を、相手が死者となった時に、より鮮明に意識することもある。

相手が生者で、しかし不在である時に意識する不在者からの「まなざし」と、相手が仏という死者になった後に意識する不在者からの「まなざし」とは、ともに不在者からの「まなざし」であっても、同じではない。死者から、どんな思いでも受け入れていつも見守っている仏になった、と感じられるようになると、今まで記憶の中にある、生者の時代の不在者からの「まなざし」が、浄化され、増幅され、時に美化される。それこそが、仏となった「あなた」からの「まなざし」であり、この転換に重要な役割を果たすのが、葬儀という儀式なのである。

世界的には偶像を信仰するスタイルを偶像崇拝といい、特に、キリスト教、イスラム教といった一神教の宗教では否定されてきた。しかし日本では、特に欧米文明が急速に流入してきた明治時代以降でも、仏像は、大切な信仰対象となってきた。その理由は何か。仏像は、基本的には人間の姿をしている。日本人の多くが、仏像の前に立つと、自然に真摯な気持ちになるのは、仏像を介して、仏からの「まなざし」を意識するからであろう。「誰も見ていなくとも、神様仏様がご覧になっているのだから、悪いことをしてはいけない」という、日本人の伝統的な倫理観こそが、仏からの「まなざし」を意識することの、あらわれである。我々日本人は、仏からの「まなざし」を意識して、思わず背筋をただすことで、自分をなし得る、というところがある。

堕胎と間引き戒めた浄土真宗 石瀬寛和氏3月21日

近世期の浄土真宗は他宗派に比べ堕胎と間引き(嬰児殺)を強く戒めた、と言われてきた。これは浄土真宗本願寺派、真宗大谷派などを問わず浄土真宗一般の傾向と言われ、近代以降の社会…

私たちが直面する世界とその課題 與那覇潤氏2月21日

コロナ禍以降の世界の構図 今日の世界のおかしさを喩えた話として、こんな場面を想像してほしい。私自身が実際に、かつて体験した挿話にも基づいている。 あなたが精神的な不調を抱…

本覚思想と法然および浄土宗教団 安達俊英氏2月17日

一、本覚思想とその評価 本覚思想とは「人は本から覚っている」という思想である。狭義的には「天台本覚法門」のことを指すが、広義にはそれと同様の内容・傾向を有する思想全般も「…

宗教情報の虚と実 宗教者は自らを発信すべき(4月2日付)

社説4月4日

地裁で解散命令 旧統一教会問題深層解明を(3月28日付)

社説4月2日

災害地支援の温度差 「身になる」ことの重要性(3月26日付)

社説3月28日
このエントリーをはてなブックマークに追加