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日本近世は仏教の時代?(2/2ページ)

東北大学術資源研究公開センター助教 曽根原理氏

2018年6月29日

しかし現在は、さまざまな研究の進展により、近世も仏教が一定の役割を果たしていたこと、仏教がもっとも国民の間に定着したのは近世だったことが解明されている。そうであるなら、近世の仏教や神仏習合思想のさらなる実態解明が望まれる。今までも、武士道の精神を説いた沢庵(1573~1646)や、民衆と共に歩んだ良寛(1758~1831)など、近世の著名な仏教者が知られていないわけではなかった。しかし、より包括的に徳川時代の宗教の全体像を把握できないだろうか? どの程度正しいかは議論があるものの、私たちは「鎌倉仏教」(親鸞、道元や日蓮)と聞けば、新たな民衆仏教の誕生を連想する。そのように「近世宗教」全体のイメージを描くことを、検討できないだろうか。

そういう観点から私は、近世初期宗教界の重要人物として天海を考えている。では、その後はどうなったのだろう。最近注目しているのは、乗因と徧無為である。まず乗因(1682~1739)について触れるなら、彼は長野県の戸隠山(天台宗の勧修院)の住職となって、独自の宗教説を主張した人物である。自らは天海の法曾孫(=ひまご弟子)であると称し、天海の教えに戸隠修験の要素を加えた新たな神道(修験一実霊宗神道)を唱えたが、配下の僧侶たちの反発を受ける。彼らが天台宗の本山(寛永寺)に訴えた結果、江戸で寺社奉行を務めていた大岡忠相らの裁きにより、遠島処分を受けて流刑地で生涯を終えた。その主張は長らく、天海以降の天台宗教学から踏み外した異端説として扱われていた。しかし私は、天台宗教団は西暦1700年前後に大きな変化があり、個人の内面や自律性を優先する口伝教学から、外形を重視し秩序を重んじる方向に転換したことを確認した。悟った者同士にしか分からない独自の内面的世界を重んじる中世教学は、誰にでも分かる形式や外見で判断される近代的価値観に克服されてしまったのである。天海の後継者を目指した乗因は、時代の変化の中で異端となり排除されたと考えられる。そこに近世から近代へ、変化していく宗教界の様子が読み取れる。

しかし、全ての者が乗因の道をたどったわけではない。時代と折り合いをつけながら、天海の教えの一端を伝えた一人が徧無為(1681~1764)であった。彼は江戸やその郊外を拠点として民間で、聖徳太子の秘伝(自称)に基づき独自の教えを説いた。乗因とほぼ同時代を生きながらも、寛永寺に所属する僧侶を兄に持ち、天台宗教団とは終始友好的だった。さらに貴顕に交わり、生涯で四百名余の信者を得たと伝えられる。彼が晩年に苦心の末に創建した善明寺(東京都府中市本町)には、関係する文書類も伝来しており、現在は府中市史編纂事業で調査が進められている。また、彼の思想を探る手がかりになるのが大量に残された著作である。その一部を閲覧し、人の心を図像で描き説明するなど、守るべき倫理や道徳を宗教の言葉で検討しようとする志向が強く感じられた。

述べてきたように、日本近世宗教の研究史は、ようやく本格的に仏教や神仏習合思想の解明に意義を認める段階に至っている。しかし、全体の見取り図は貧弱で、着手されていない資料は多い。私は最近、オランダの研究仲間(M.Buijnsters氏)に、徧無為に関わる戦前の研究者の三田村鳶魚などの研究文献を教わり驚いたことがある。思いがけない方面に、広がりや新たな発見があるのかもしれない。手つかずの資料の量を考えると気が遠くなる。一人でも多く、関心のある方々が現れることを願っている。

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