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印融500回忌に寄せて(2/2ページ)

駒澤大非常勤講師 遠藤廣昭氏

2018年6月27日
◆印融の書写・著作活動

学僧である印融は、生涯で多くの写本や著作を残している。これが後の世にも書写され、また版本として出版されて現在にも伝わっている。その全容はいまだ掴めないが、60余はあろう。これを分類すれば、真言密教の事相・教相の類、梵字の教本である悉曇、音韻の教本、漢詩文に関わる書物、密教図像の本、辞書類等々広きにわたる。

真言密教の事相・教相ついては、釈論・大疏の関係書はもとより、三宝院流・西院流の四度等も作法に関する書も多く抄している。また『西院八結』等膨大な数の西院流の聖教を書写している。印融書写本の中には真言宗の事相相承血脈の集大成として、また、僧伝研究の上で最も信憑性の高い『血脈類集記』のように、印融が書写しなければ今日に残らなかった貴重な史料も存在する。

悉曇関係では、『悉曇十八章聞書』『悉曇問答』『悉曇論議私抄』を書写する。さらに『悉曇滅罪鈔』『悉曇初心問答鈔』を幼弟子竜王丸のために記し、松寿丸にも書写し与えている。いずれも難解な梵語学を分かり易く弟子たちに伝えるためのものである。これらは、近世に入っても書写・出版されている。また、梵語と漢文の発音法等を体系化し、文明頃には『梵漢反音抄』『梵漢配合』『三四反切私抄』を記す。さらに『十八章反音私抄』を松寿丸の稽古のため、『八転声私抄』を仙順房覚融のために記し勉学を励ましている。

漢詩文・文法等に関しては、般若経の文筆を註した『秘鍵文筆抄』、詩文等の作成のための初学者向けの書『作文略集』、平安時代の文章論を継承した『文筆問答鈔』、『三教指帰』の文法及び句法を解説した『三教指帰文筆解知鈔』、『性霊集』の文法及び句法を解説した『性霊集私分文句』、各流派のヲコト点を図示した『真俗二点集』等がある。

このうち『文筆問答抄』の奥書には、弘法大師は序において、雑文体(表白、諷誦、願文、奏状、勅答等で七句からなる)を用い、頌文には作文体(詩、頌、碑銘、歌詠等で七言・五言からなる)をとっていることを最近の学者は知らず、とても嘆かわしいことだと述べる。さらに破戒の禅僧や肉食妻帯の儒学者は、大師の文筆法を知っていて褒美し信仰さえしている。これに対して、真言宗の学徒はまさに燈台下暗しであると嘆いている。

密教図像には『両部曼荼羅私抄』がある。これは曼荼羅研究の必読書で、現在でも使用されている。

辞書類であるが、永正5(1508)年には『塵袋』を幼弟子たちのために書写している。これは、類別の辞書で、印融書写本が伝存する唯一のものである。印融が書写しなければ今日に伝わらなかったものの一つである。また古書・篆書・隷書等の書体の成り立ちや使用方法を記した『諸書得解鈔』も著しているのである。

◆『杣保隠遁鈔』の完成と晩年

こうした印融の書写・著作活動の最終段階が、真言宗義の大成書とも言うべき『杣保隠遁鈔』20巻の著作である。永正11(1514)年6月、武蔵国杣保明王堂(東京都青梅市柚木)において著作を開始し、同12年正月19日に浦和延命寺において完成させている。

印融は同16年8月15日に85歳で示寂する。同年8月8日には青梅即清寺で、秀尊に西院流の法脈を授けている。これは印融示寂の1週間前であることから、秀尊が印融最後の付法の弟子となったものと思われる。

印融の墓は、観護寺と三会寺に存在する。辞世の歌は「生まるるも阿字より来れば死とても本の不生に帰りこそすれ」が有名だが、もう一首、高野山宝寿院印融画像裏書に「みな人は阿字より出て阿字にいるきたらすさらす本の宮古路」と詠まれている。

印融は大変読書を好み、外へ出かける時にはいつも小牛に乗り、鞍には文卓をつけ、牛の角には経巻を懸け、お経を唱え、詩歌を口ずさんでいたと言う(『本朝高僧伝』)。三会寺には牛に乗った印融の画像(駕牛図)が所蔵され、ありし日の姿を今に伝えている。

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