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第7回中日仏学会議に参加して(2/2ページ)

創価大教授 菅野博史氏

2018年1月17日

鳩摩羅什は紆余曲折を経ながらも、後秦の姚興(393~416在位)によって、弘始3(401)年に長安に迎えられた。彼は改めて『大品般若経』『小品般若経』を漢訳した(後に、玄奘が改めて『大般若経』600巻を訳したが、言うまでもなくこれらの大品系、小品系を含む)。また、インドの中観派の著作、『中論』『十二門論』『百論』の3論を翻訳し、『大品般若経』の注釈書である『大智度論』をも漢訳した。このような『般若経』の受容にともない、また鳩摩羅什の弟子の僧肇(384~414?)の活躍もあり、老荘思想の無の思想とも一脈通じると考えられた空と般若の教学が盛んになった。

一方、鳩摩羅什の弟子から、中国仏教の大きな特色の一つである教判が形成されはじめたが、その代表者である慧観(生没年未詳)は頓漸五時教判を形成したといわれる。これによれば、漸教の五時のなかで、『大品般若経』は第二時の三乗通教、声聞のための教えと低く位置づけられた。

この頃、法顕(339?~420?)訳の『六巻泥洹経』や曇無讖(385~433)訳の『北本涅槃経』40巻が中国にもたらされた。仏性の普遍性と仏身の常住を説く『涅槃経』の思想は、現実世界の積極的肯定を好む中国人にはより親密感を持って受け容れられたのか、『般若経』の真空の思想から『涅槃経』に代表される妙有の思想への漸進的な転換が進んでいったように思われる。

その後、『般若経』と『涅槃経』に代表される空と有の対論をめぐって、梁代の『涅槃経』の隆盛と僧朗(生没年未詳)、僧詮(生没年未詳)、法朗(507~581)を継承して吉蔵(549~623)が大成した三論学派の形成があった。

平井俊榮氏の研究によれば、吉蔵の『涅槃経遊意』には、僧詮が僧朗にしたがって、三論、『大品般若経』を講義したが、『涅槃経』『法華経』については講義をしなかったこと、弟子たちが『涅槃経』の講義を要請したが、僧詮は弟子たちがすでに『般若経』を理解しているのであるから、改めて『涅槃経』を講義する必要がないと断ったこと、弟子たちが重ねて要請したために、「本有今無偈」のみについて講義したこと、法朗がはじめて『涅槃経』を大いに弘めたことが示されている。さらに、吉蔵『大般涅槃経疏』(現存しないが、平井氏によって逸文が整理された)には、僧詮が『涅槃経』を講義しなかった理由は、自分の寿命の尽きることを自覚しており、大部な『涅槃経』を講義し終える時間的余裕がなかったからであったことが記されている。

一方、法朗は僧詮に『涅槃経』について個人的に質問し、その大意について口頭で指導を受けたが、この事実については他の弟子は知らなかったようである。法朗に『涅槃経』の注釈書があったことは、『続高僧伝』法朗伝にも触れられておらず、吉蔵自身もこの疏の存在については何も述べていないけれども、平井氏は、灌頂(561~632)の『大般涅槃経疏』に法朗の説が最も多く引用されることを明かし、法朗に『涅槃経疏』があったと推定している。

吉蔵は、『涅槃経遊意』において、「無所得」は『涅槃経』の宗(根本思想)であるばかりでなく、すべての大乗の正意であることを強調している。「無所得」といえば、『大品般若経』の宗ともいわれるものであるから、吉蔵は明確に『般若経』と『涅槃経』の思想を統合する狙いを持っていたと思われる。

従来、吉蔵思想の研究は、『三論玄義』『中観論疏』『十二門論疏』『百論疏』『大乗玄論』などによって行われ、必ずしも吉蔵の経典注釈疏の研究は盛んでなかった。筆者は吉蔵の法華経疏の研究に力を注いできたが、近年は『涅槃経遊意』や『大品経玄意』の研究にも取り組んでいる。今回の会議で、筆者が『大品経玄意』、董群氏が『金剛般若疏』をそれぞれ扱ったが、『仁王般若経疏』も含めて、吉蔵の三種の般若経疏の研究はあまりなされてこなかった。今後の大きな課題であると思う。

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