被災地福島の子どもたちは今 ― 大人は小さな声受け止めよう(1/2ページ)
曹洞宗復興支援室分室主事・チャイルドラインふくしま事務局長兼理事
久間泰弘氏
東日本大震災から6年を迎えようとしている被災地では、仮設住宅から災害公営住宅などへの居住空間の移動が進んでおり、一見して復興は順調に進んでいるように思えます。しかし、被災者、特に子どもたちの心は、その速度に順応できているでしょうか。
福島県の子ども避難者数は現在も2万430人(県外9252人、県内1万1178人=2016年10月1日現在 福島県データ)を数えており、震災前の生活には戻れていません。これまでも、放射線による外部被ばく防護のための屋外活動の時間制限や内部被ばくの心配により、子どもたちの体力低下とストレス増加が指摘されてきました。また、指定・自主避難の家族形態は母子避難が多く、ある意味、母子という最も密接かつ最も閉じられた関係性の中で、勝手の違う土地での生活に、母子ともに生活上の困難・ストレスを抱えています。
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが14年から実施した被災地の虐待調査では、福島県においてグレーゾーン(不適切な養育に関する状況)やレッドゾーン(外部介入が必要な状況)ケースが増加しているとの報告がなされました。さらに、被災地では震災後に一人親世帯が増えて家計的に厳しくなったことから、高校生なども生活費を稼がなくてはならなくなっている家庭も少なくありません。このような理由から、震災後では物理的に子どもが一人で過ごす時間が増加しているために、不適切な出会いなど様々なリスクに遭う可能性も大きくなっています。
チャイルドライン(http://www.childline.or.jp)は、子どもの権利条約第3条「子どもの最善の利益」を最大理念にした傾聴による18歳までの子ども専用電話(ヘルプライン)で、子どもたちの声を受け止めることによって、心の居場所を実現すべく活動をしています。現在は40都道府県70団体で全国フリーダイヤルで実施されています。
震災時、福島県内にチャイルドラインは未開設でしたが、その後に震災不安や避難ストレスなどの影響を受けている子どもたちを憂慮し、12年に郡山市、13年に福島市で電話窓口を開設しました。
その活動データとして、14年度には福島県の子どもたちからの電話発信件数が2万3070件でした。これは愛知、東京、大阪などの大都市に次ぐ全国7位の多さで、震災以前と比較して4倍以上にもなっており、1日(16時~21時の5時間)にすると約64本もの電話がかかってきている計算になります。
福島県の子どもたちからの電話内容は、全国の子どもたちと比べても、人間関係やいじめが突出して多くなっており、11年度~12年度には男子のいじめが全国比5倍となりました。また、震災後3年目からは男子の進路・将来・学びについて全国比5倍、女子は自傷自殺・妊娠・性感染症について全国比10倍、さらに15年度には虐待についての話題も増加し、ますます子どもたちの身心が心配されています。
これらは、長引く避難生活や収束していない原発事故による閉塞感などの影響が大きく、大人や社会全体が感じている日常のマイナス感情に子どもたちが敏感に反応しているものと考えられています。以下に、チャイルドラインに寄せられた子どもたちの声をいくつか紹介します。
〈被災地の子どもの声〉
・震災後、お金のかからない専門学校を選んで受かりました。親も喜んでいます……。地元は職のない人や働けない人もたくさんいて、何だか落ち着きません。
・今、仮設に家族4人で住んでいるけど、狭くて息が詰まる。はじめは、家族が助かっただけでも良かったって思ったけど、こんな生活、いつまで続くんだろう。お父さんの会社も建物が流されて大変そうだし、高校に行けるのかな……このごろ夜よく眠れなくて、時々あの時のことを思い出すんだ。本当につらい。
・両親に暴力を受けています。児童相談所と副担任に相談しても変わらず、警察に相談したら親身に対応してくれました。地震で大変な時なのに、助け合うのではなく暴力を受ける。本当に悲しい。
・高校が原発の近くで立ち入り禁止になりました。将来、自分はどうなっていくのか。不幸になりたくて生きているわけではないのに。
・埼玉の親戚の家に避難してきました。嫌なことがあって、「どこから来たの」って聞かれるの。言いたくないけど仕方がないから、「福島だ」って言うと、放射能うつるって言われました。福島に帰りたいな。でも駄目だよね。