被災地福島の子どもたちは今 ― 大人は小さな声受け止めよう(2/2ページ)
曹洞宗復興支援室分室主事・チャイルドラインふくしま事務局長兼理事
久間泰弘氏
16年11月には福島から横浜市に避難している子どもが、放射能や賠償金の話題によって大変ないじめ・恐喝にあっていたことが判明し、その後も各地で福島県から避難した子どもたちの原発・放射能に関するいじめが報道されるようになりました。大人や社会全体では忘れ去られようとしている震災・原発事故が、子どもたちの世界ではいまだに現在進行形だったのだ、ということを思い知らされた事件でした。
このことからも震災以降、身の回りに言うことができない何かを胸の内に抱えている子どもたちが大勢いるということが想像されます。これからも困っている子どもたちの気持ちを受け止め、その心を少しでも癒やしていけるように活動していかなければならないと強く感じています。
今回の東日本大震災は、広域に被害をもたらした地震・津波・原発事故の複合的大災害であり、これまでの災害に比して「こころの復興」が遅いとの指摘は、被災地支援に携わる人間にとっての共通言語になっています。
そのような中、今後の支援活動で私たちには何ができるのでしょうか。それは、子どもたちを不要に傷つけない対応・配慮だと考えられます。私は、これまでの復興支援活動において、支援するはずの行動がかえって相手を傷つけてしまうということを目の当たりにするたびに、苦悩を抱える人の隣人でありたい私たちも、相手を尊重するのに必要な基本的な知識と心構えを身に付けていく重要性を実感してきました。
災害時において子どもを傷つけることなく寄り添うために私たち大人が知っておくべきことに、トラウマケア、グリーフケア、PFA(心理的応急処置)などがありますが、その前提にあるものとして子どもの権利条約やアタッチメント理論(愛情・愛着)があげられるでしょう。
災害などの大きなショックで、自己効力感や自尊感情が低下してしまう子どもたちは少なくありません。そういった子どもたちの回復に何よりも大切なのは、自分自身(存在や意見)を認めてもらえることなのです。
例えば、子どもの権利条約第12条「意見表明権」には、大人や社会は子どもたちの意見に対し誠意を持って聴き受け止めることとあります。これは大人が子どもを社会をつくる対等のパートナーとして尊重し認めていく、ということを意味しています。
また、アタッチメント理論では、子どもは自分らしさ、自分の可能性を様々模索する「自由」と、どんな結果になろうとも、無条件に抱えられる「安心」を大人・社会に保障されることによって、初めて人生に対する思い切ったチャレンジが可能となり、成功するとき「自信」を得て、自立(自律)の階段を上がり始めるとされています。無条件に抱えられるという経験が、自己効力感や自尊感情を回復するのです。さらには補償感情(相手を思いやる心情)を育むことで自制心を高め、責任ある行動を可能にしていくのです。子どもの心の回復や健やかな育ちの実現は、他者に受け止められる経験から育まれ、大人との間に築かれる人間関係の“質”に関わってくると言えるでしょう。
被災地の子どもたちは今、時間の経過とともに震災のことを話せなくなってきています。なぜ話せなくなってきているのでしょうか。それは既述したように、子どもたちの周辺に、小さな、しかし確かな声や気持ちを聴いて、受け止めてくれる大人や社会が不足しているからではないでしょうか。子どもたちの心の復興には、予算や建物だけでは十分とは言えないのです。
今後の子どもたちの心の復興には、子ども支援の専門家をはじめとして、行政・民間、そして地域社会全体での子どもに対する総合的支援がますます重要になってくるでしょう。震災2年目に、精神科医・斎藤環氏から発せられた「苦しんでいる人々に対しては、専門家だけではなく、早期になるべく多くのボランティアを含めた社会全体でのサポートが必要」という姿勢が広く要請されているのです。
確かに、私たち一人ひとり全てが「子ども支援」や「心のケア」の専門家とは限りません。しかし、私たちの周りには、何らかの問題を抱え苦悩している多くの子どもたちがいることも事実です。私たちは誰しもが苦悩を抱える人の隣人になり得ます。そして、その人々に寄り添える隣人になれると信じています。