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「よりよい世界」を問う国際社会学会(2/2ページ)

北海道大大学院教授 櫻井義秀氏

2016年9月30日
現代宗教は新しい枢軸文明を開けるか

現代日本において宗教と政治が交錯する地点と言えば、自民党と公明党(創価学会)や日本会議(支援の教団)の協力関係、安倍政権による原発維持・憲法改正の動きに反対する諸教団の動向だろうか。これらに対する評論は盛んであり、研究も出てきているが、社会(家族・地域社会・職場)に直接関わる切実な課題として私たちに認識されるには至っていない。

EUでは宗教的多様性をめぐる政治が社会に直結している。日本の外国人定住者は約210万人であり、イスラーム人口はその数%なので日本国民の0・1%にも達していない。しかし、北欧諸国は総人口の約3~5%、南欧諸国は2~4%、ドイツは5%、ベルギーは6%、イギリスは4・6%、フランスは約10%のムスリム人口をかかえる。宗教多文化主義は諸民族・諸宗教が安全に信頼し合って共生するために必要不可欠の論理である。

しかし、グローバル経済における富の一極集中、貧困と失業の蔓延によって、EUでは約7割の労働者がポピュリストを支持し、既得権益層―中間層との関係が深い伝統宗教は踏み込んだ社会改善の発言ができないと言われる。カトリックや正教における教会の権威を信じる者ほど人権や他宗教への寛容性に疎いという調査結果も報告された。多くの国で国民投票や街頭の政治で国の進むべき道が決まれば、EU・米では民主的な手続きでポピュリズムが社会を席巻し、ロシアや中国といった強権国家との対峙も深まるだろう。

前・国際社会学会長のマイケル・ブラオイは、現在の状況は1930年代末と似てきていると言う。幸いなことに、私たちは国際学会のような交流やソーシャルメディアのおかげで、第2次世界大戦前夜とは比較にならないほど直接・間接的な対話の機会を持っている。

現代宗教は国家を代表せず、社会から包摂されてもいない多くの人々の声を拾い上げながら共生のモデルを新たに作り上げていくことが求められている。だからこそ、1949年にカール・ヤスパースが発表した「枢軸時代の文明」(中国の諸子百家、インドの六師外道と仏教、古代オリエントの宗教・ギリシャ哲学・キリスト教)、諸宗教の勃興という歴史的平行現象に再び宗教研究者が着目し、宗教そのものの文明的意義を問うているのではないか。

大会の議論を通じ、私たちがきわめて重要な時代の潮目に生きていることを改めて認識させられたのである。

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