心に寄り添うために発達障害を知る ― 全ての個性を認め合う(1/2ページ)
臨床心理士・浄土真宗本願寺派僧侶 武田正文氏
現代社会における仏教や僧侶の役割が問われ、様々な新しい視点からのアプローチがなされています。私は「心」という視点から仏教に向き合っていきたいと考えています。仏教と臨床心理学は、どちらも人の苦しみに向き合い、その苦しみの解決を目指しています。両者の共通点、相違点を模索することで、現代を生きる人々の苦しみに仏教がどのように応えていけばよいのかが見えてくるのではないかと思っています。
近年の心理学ブームから、「共感」「傾聴」といった言葉がよく使われるようになりました。悩みを抱える人の気持ちに寄り添い、語る言葉にしっかりと耳を傾ける。シンプルで当たり前のようにも感じますが、実際に目の前の人と言葉を交わそうとすると、そう簡単ではないことに気がつきます。
私たちは、他者を理解しようとするとき、どうしても自分の価値観や考えの枠組みを基準にします。相手の気持ちを理解しようとしても「私ならこう感じる」「普通こうするだろう」という思い込みが、共感とは逆の働きをしてしまいます。
目の前の人を理解する一つの枠組みとして「発達障害」を紹介します。発達障害とは、能力の得意・不得意が極端なことから、生活上に何らかの困難があることです。「普通こうすればいいのに」と周りの人が思っても、発達障害を抱える人は、じっとしていられなかったり、言わなくてもよい一言を言ってしまったりしてトラブルになってしまいます。
脳の機能障害が関連していると言われますが、明確な原因は特定されていません。子育てをするときに物事を教えることが難しかったり、保育園や学校で集団行動することが苦手だったりします。
みなさんも周囲の子どもの中で、一見、元気で明るい子に思えるのに、学校ではトラブルが多いと聞き、「なぜこの子が?」と思うことはないでしょうか。こうした問題の背景に発達障害が隠れていることが少なくありません。簡単にではありますが、主な発達障害を紹介します。
多動性、衝動性、不注意が特徴となります。静かにしていなければならない場面で走り回り、一人で喋り出してしまいます。また順番待ちができず、新しいものを目にするとすぐに手を出します。好きなことには熱中できますが、集中力は途切れがちで、細かいところにミスが多くなります。
集団の中でルールを守って生活をすることが苦手で友達とのトラブルも増えがちです。そのため、叱られることが多く、次第に自信を失います。周囲の大人は、悪いところを指摘するばかりではなく、良くできたことを褒めてあげることが大切です。「静かに座って、頑張ったね」と声をかけ、適切な行動を定着させます。
外界の刺激に反応しやすいので、目や耳に入る情報を少なくする環境調整が有効です。また、多動性や衝動性が高い場合には、薬物療法も行われます。薬物療法に抵抗感を抱かれるかもしれませんが、ADHDの子どもたちは自分の多動性・衝動性が抑えられずに苦しんでいます。薬物療法で、症状を抑えることで本人も楽に生活が送れるようになります。
自閉症スペクトラム症候群とも呼ばれ、知的発達に遅れがないものの、想像力や社会性の発達に遅れが見られます。相手の気持ちが読み取りにくく、コミュニケーションに困難を持っています。またパターン化した行動が見られ、興味関心に偏りがあります。自分のイメージ通りに物事が進まないと怒るので、「わがままな子」と見られがちです。
アスペルガー症候群を抱える子にとって、学校や友達は予測できない不安な世界として体験されます。「周りの子と同じようにしていればいいから」というアドバイスを理解しにくいので、見通しのはっきりした具体的な指示が大切です。また、コミュニケーションについても、場面に応じてどう受け答えすればよいのかを練習すれば身に付けることができます。