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守るべき国とは何か ― 「自由と平等」目指す自由の国(1/2ページ)

真宗大谷派教師 兪渶子氏

2016年3月2日
ゆ・よんじゃ氏=1949年、広島県生まれ。朝鮮民族学校卒。大谷大・教師修得コース2年間修了。2004年から沖縄在住。著書に『無窮花』など。

靖国、この言葉を気にし始めたのは、いつの頃からだったろうか、今改めて自問する。

十五年戦争、第二次世界大戦、大東亜戦争、と様々な名が付いた戦争が終わって40年の年に、当時の首相中曽根康弘氏が、靖国神社に公式参拝した。その頃、それは政教分離を定めた憲法に違反すると立ち上がった僧侶たちに出会った。

反面、よくぞ参拝してくれた、と喜ぶ人々の声も聞こえてきた。

戦争に様々な名が付いたように、靖国の問題も様々な見解がある。だからこそ、自分はどこに立って、考え行動しなければならないか、私に課題が生まれた。

未来から問われる

同じ年の『荒れ野の40年』と題した、ドイツのワイツゼッカー元大統領の演説を読んだ。「過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります。非人間的な行為を心に刻もうとしない者は、またそうした危険に陥りやすいのです」。この言葉に、過去からでは無く未来から問われているのだ、と考えさせられた。未来が、過去を救うのだ、と。

しかし、靖国にまつられたいのちは「英霊」だと、教えてもらった。けれど「英霊」になって、過去に閉じ込められてしまったのではないか、と私は思う。何故なら中曽根首相の「戦没者を祀る靖国神社を国の手で維持しないで、これから先、誰が国のために死ねるか」との公式参拝の折りの発言は、いつでも「英霊」を復活させ、死を美化し、戦争という非人間的な行為に陥らせてしまわないか、と危惧が生まれるから。

絶えることなく、繰り返される戦争。地球のどこかで、今、今日も……。

「戦争は起こした側も起こされた側にも、犠牲者しか生まない」。大谷派僧侶・藤元正樹師の言葉だ。私は深くうなずいて、戦争を前提にした平和など、嘘だと言う。

ため息ばかりでは何もできない。諦めは無責任。心に刻み続ける悲しみの共有が、今この時代を平和へと導く道だ、と信じたい。

戦争を知らない私。戦争を知らない若者たち。人生の先輩たちは黙して語らず、私たちは平和なふりして生きていた。けれど、記憶し語り始めた人の言葉に接して、戦争とは何かを学ぶ。

沖縄戦証言に学ぶ

沖縄戦の話。「集団自決の場において愛児の両足を取って振りまわし、号泣しながら、その頭がボロボロになるまで幾度も岩にたたきつけた父親がいたという。自分の小便を自分も飲み、子どもらにも飲ませて、かろうじて生きながらえた母子らがいたという。赤ん坊の泣き声が米兵に聞かれては困るからなんとかするようにと日本兵に強要され、赤ん坊と共に確実な死の待つ壕の外へ出て行った母親がいたという。泣き声を立てると叱られることを憶えてしまい、遂には涙のたまった目だけをカッと見開いて声を立てずに泣く幼児がいたという」(『沖縄戦住民証言集・人間でなくなる日』中山良彦編―『戦争賛美に異議あり!』靖国神社国営化反対沖縄キリスト者連絡会編集発行より再引用)

沖縄の友人が体験した本当の話。生き残った者にも戦争の記憶は地獄の日々であった、と思う。しかし、友人からは、戦争だったから仕方なかったという諦めの言葉など聞いたことがない。悲しみのまなざしに、死んだ母と兄弟への慈しみだけが伝わってくる。会う度に変わることのない静かな趣。沖縄で「靖国裁判」が始まる数日前の夜。海から吹いてくる風がたいまつの炎をゆらす。炎が友人の横顔を照らすのを見ながら話を伺った。「『英霊』なんかじゃない。殺されたんです。靖国にまつられたくないんです」と。

靖国にまつられて救われた、という人の話も聞いたけれど、泣くことも許されない「英霊」の遺族になることを拒否した、友人の悲しみの勇気、そうだ勇気だ。勇気に私も呼応したい。

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