PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
新規購読紹介キャンペーン
PR
第21回涙骨賞募集 墨跡つき仏像カレンダー2025

スピリチュアリティーは伝統宗教を駆逐するのか(1/2ページ)

北海道大大学院准教授 岡本亮輔氏

2015年9月2日
おかもと・りょうすけ氏=1979年、東京生まれ。筑波大大学院人文社会科学研究科修了。博士(文学)。専攻は、宗教学・観光社会学。著書に『聖地と祈りの宗教社会学』(春風社)、『聖地巡礼―世界遺産からアニメの舞台まで』(中公新書)。
イベント化する宗教

パワースポット、御朱印集め、一之宮めぐり、仏像ブーム、著名人や歴史上の人物の墓めぐり、各地の祭りの観光化。伝統宗教の危機が語られる一方で、宗教が注目の的になったり、宗教と関わる場所に人が集まっている。2010年、神道の最高聖地である伊勢神宮は860万人の参拝者があった。仏教では今年2015年、高野山開創1200年を祝う大法会が行われた。4月の1カ月間だけで、予想を上回る20万人以上の参拝者が訪れている。

問題なのは、こうした伝統宗教の活況が日常的な宗教生活の再興にそれほど結びつかないことだ。秘仏などの御開帳や四国遍路といった巡礼は、宗教実践の中でも非日常性が高いものだ。そのため、観光や娯楽と結びつきやすい。現代でも、少なくない人が特別なイベントとして宗教に接している。

しかし、日常生活となると、ますます宗教の居場所はなくなっているように見える。若年層に限って言えば、墓参りや法事、初詣や七五三以外で寺社を訪れる人は少ないだろう。悩みや相談事がある時に宗教者の元へと赴く人となると、ほとんどいないのではないか。さらに言えば、仮に宗教者の所へ行ったとしても、僧侶や神職ではなく、占い師や霊能者だったりするのではないだろうか。

スピリチュアリティー―ガイドされない宗教性

現代では、伝統的な教団や宗教者と無関係に宗教が受容・実践される局面が増えている。個々人が思い思いに宗教を消費する個人化が広がっている。スピリチュアリティーは、そうした傾向を指す概念だ。

スピリチュアリティーについては様々な定義が提出されてきたが、筆者は、伝統宗教との対比で理解している。一言で言えば、伝統的な教団に管理された方法で聖なるものにアクセスするのが宗教で、個々人が自発的に聖なるものにアプローチするのがスピリチュアリティーだ。宗教もスピリチュアリティーも、いずれの核心にも聖なるものがある。要するに、聖なるものへのアプローチが伝統的な仕方でコントロールされているか否かの違いである。

そのように考えると、スピリチュアリティーの興隆とは、誰もが聖なるものへ自己流でアクセスするようになることだ。こうした状況は、伝統宗教の支配力が低下した先進社会では広くみられる。聖地巡礼の流行は、その帰結の一つと考えられる。宗教学者の星野英紀氏が指摘する通り、巡礼は、宗教者がほとんど介在しなくとも可能な宗教実践だ。巡礼とは聖地への移動に他ならない。その移動プロセスの宗教者のいないところで、自己実現したり、気づきを得たりしているのである。

伝統宗教にはあまり都合の良くない状況だ。だが、こうした趨勢はこれからも続くだろう。何も宗教だけが、受容者の自発性に戸惑っているのではない。たとえば、テレビも同様だ。今の視聴者は、テレビ局側が見せたい時間に家族でテレビの前に陣取り、最初から最後まで視聴してくれない。基本的には録画しておいて、見たい時に見たい部分を見る。ネット上に違法にアップロードされた動画で済ませてしまう人もいる。面白そうなところだけをつまみ食いして、テレビ局側にとって最も肝心なコマーシャルは飛ばされてしまうのだ。

テレビでの喩えを続ければ、チャンネル自体が増加している。日本では、キー局を中心にした寡占状態が続いてきたが、今では海外のテレビ番組の視聴も容易だ。宗教の領域でも、チャンネルの選択肢の増加が見られる。伝統宗教の他にも、いくらでも宗教的なものが存在する。新たに生まれる宗教もそうだろうし、疑似宗教的な運動もある。ネットでは、様々なワークショップやセミナーの情報が入手できる。

『顕正流義鈔』にみえる真慧上人の念仏思想 島義恵氏11月20日

真慧上人について 高田派第十世である真慧上人(1434~1512)は、第九世定顕上人の子息として誕生した。その行実は『代々上人聞書』『高田ノ上人代々ノ聞書』や、五天良空が…

日蓮遺文研究の最前線 末木文美士氏11月14日

1、遺文研究の集大成 近年の日蓮遺文研究の進展には目を見張らされるところがある。とりわけ日興門流に連なる興風談所は、御書システムの提供や、雑誌『興風』及び『興風叢書』の刊…

瑩山紹瑾禅師の俗姓について 菅原研州氏11月5日

曹洞宗で太祖と仰ぐ、大本山總持寺御開山・瑩山紹瑾禅師(1264~1325)の俗姓について、現在の宗門内では「瓜生氏」として紹介されることが多い。しかし、江戸時代までの史伝…

勤労感謝の日 仏教における労働の意義(11月20日付)

社説11月22日

古文・漢文の教育 文化的含蓄を学ぶ意義(11月15日付)

社説11月20日

災害ボランティアの課題 現地のコーディネートが要(11月13日付)

社説11月15日
このエントリーをはてなブックマークに追加