社会的養護・CSPという考え方 ― 望ましい行動を効果的に躾る(1/2ページ)
防府海北園副園長 岩城淳氏
「児童養護施設に足を運ばれたことのある方、どれくらい、いらっしゃいますか?」。私は、いろいろな方々の前でお話をさせていただく際に、まずこの質問をします。多くの場合、児童養護施設の認知度は1割にも満たないのが現実です。そこで、私が副園長を務める児童養護施設防府海北園の話から始めさせていただいています。
防府海北園は、戦後多くの戦災孤児と言われる子どもたちが、生活の場に困り、生きていくことに困難を感じていた時代に浄土真宗本願寺派の僧侶であった私の祖父・岩城眞也が、戦争のために親を亡くしてしまった子どもたちと、共に生きて行こうと私財をなげうって創設しました。その後、息子の満が志を引き継ぎ、時代のニーズに合わせた社会的養護を展開してきました。現在は、約70人の子どもたちが防府海北園で生活をしています。
児童養護施設とは、保護者の疾病や経済的困窮等、何らかの理由で親と一緒に生活のできない子どもをお預かりして、安心安全な生活の場所を提供し、私たち職員と呼ばれる大人が寄り添い、支えていく。簡単に言えばそういう場所です。
現在は、児童養護施設は生活単位の小規模化に着目して、大きい建物から小さい建物への移行が進められています。大きい建物の中を区切って生活単位を小さくするユニット化や、地域に家を建て、または借りて生活するグループホームの形です。さらに今後の社会的養護では、里親活動も大きな割合を占めることになっていくでしょう。
親と一緒に生活できないのには、様々な理由がありますが、近年問題となっているのは、児童虐待です。ネグレクト(育児放棄)も含めると、児童養護施設で生活する子どものうち約6割は虐待が主な理由と言われています。
虐待というと、もちろんニュースで流れるような悲惨な事件もありますが、年間7万件にものぼる多くの虐待通告や相談の裏には、子育てに悩んでいる保護者の姿があります。多くの虐待は、相談場所がなく助けがなく、周りの目がないところで、子どもと向き合って発生しているのです。私は、望ましくない関わりをしてしまった保護者に対して、そして子育て支援のツールとして、コモンセンス・ペアレンティング(CSP)というプログラムを通して支援を行ってきました。
コモンセンス・ペアレンティングは、行動療法の理論背景をもとに全米最大の児童福祉施設であるガールズ&ボーイズタウンで開発されました。ロールプレイを使って、子どもの問題行動を減らし、望ましい行動を効果的に躾られるプログラムです。このプログラムを「児童養護施設神戸少年の町」の当時児童指導員だった野口啓示先生が日本に持ち帰り、日本の文化に合わせて開発、効果検証を行ってこられました。
CSPを「望ましい行動を効果的に躾られるプログラム」と紹介しましたが、子どもを躾ようとして、うまく躾られない、期待する行動をしてくれないのはストレスになります。私は、虐待の原因の一つとして、「ストレス」を考えます。
ストレスは蓄積します。例えば、「昨夜から夫婦げんかをしていて、仕事がうまくいかず、なんだか熱っぽい、子どもが泣いている登園前の朝の状況」を想像してみてください。
子どもが泣いている朝の状況だけならストレスにならない人もいるでしょう。しかし、ストレスの重なった状況を考えると、虐待という問題は、身近に感じることができるのではないでしょうか。
ストレスに対しサポートがある環境というのは大切になります。いろいろな虐待ケースと関わったときに感じるのは、「非常に追い詰められた状況がある」ということです。
最近は、何らかの発達障害の話など、子どもとの関わりそのものに対する不安を聞くこともあります。まじめな母親ほど悩み、それに対するサポートがうまく機能しなかったとき、自分が本来したくなかった行動をしてしまう可能性があります。そうした状況で、たたくという行動をとってしまうこともあります。