公益法人の収益事業課税要件 ― ペット葬祭業判決を読み直す(2/2ページ)
同志社大教授 田中治氏
第1に、最高裁判決は、社会通念に照らした総合的判断をいうもので、これはそれなりの合理性はあるものの、社会通念等の意味内容はなお不明である。
第2に、最高裁判決は、そもそもなぜ公益法人の本来的事業(非収益事業)が非課税なのか、についての言及はない。判決は、法人税の論理(個人所得税の前取り)に全く触れていないが、このことは、収益事業課税の理由と限界を理解するための前提を見失わせるものである。
第3に、最高裁判決は、収益事業該当性の判断基準として、「対価性」と「競合性」を挙げているが、これらの判断基準の相互の関係や比重は定かではない。また、一定の教義と様式を備えた宗教行為と競合する一般事業とは何か、そのようなものはありうるのか、という基本的な問題にも触れていない。
第4に、最高裁判決は、問題の事業がなにゆえに請負業、倉庫業等に当たるかという個別の事業該当性を判断していない。法人税法が求めているのは、問題の事業が「収益事業一般」に該当するか否かの判断ではなく、特掲された事業のうち、個別の「請負業」「倉庫業」等に該当するか否かである。判決がなぜ、その判断を収益事業一般に広げたのか、その理由は定かでない。
例えば、宗教法人がペットの遺骨を納骨堂において管理することをもって「倉庫業」と断定することへの躊躇があったのかもしれない(倉庫業は寄託を受けた「物品」を管理するものである)が、これも推測の域を出ない。
第1に、法人税に関し収益事業該当性を判断するにおいては、上記のとおり、非収益事業はなぜ非課税か、という出発点に立ち帰ることが基本である。
第2に、その上で一般の事業者との競合性を理由として、利益を分配しない公益法人についても、例外的、限定的に収益事業課税がなされるものというべきである。
第3に、収益事業と非収益事業を分けるもう一つ別の基準として対価性がいわれるが、この基準は、漠然としたものであり、かつ多義的である。
例えば、ペット葬祭業に係る一連の判決は、具体的に3種類の葬儀形式と6段階の重量等を組み合わせた18の確定金額の存在に着目し、依頼者の支払金額は任意のものとはいえず、宗教法人が提供する「役務の対価の支払い」であるとする。裁判所は、本件の金員の支払いは、給付と反対給付の対応関係が明確で、場合によっては債務不履行の追及が可能な事案であるとみて、対価性という基準を用いたということができるであろう。
とはいえ、この対価性という基準は、解釈如何でその範囲が変わりうる。給付と反対給付との関係を緩く解することによって容易に課税の強化をもたらすことになりかねない。
このように考えると、収益事業課税の一般的基準としては基本的に、当該事業が対価性を持つかどうかではなく、競合性基準によるべきである。ペット葬祭業に関していえば、当該事業が対価性を持つかどうかが問題ではない。収益事業は対価を得るものではあるが、逆に、対価があるから当然に収益事業であるということはできない。宗教上の教義や様式に基づいて霊の鎮魂や飼い主への癒やしという事実があるかどうかが決定的であり、それが一般の事業との大きな違いを示している場合には、競合性はなく、非収益事業であって、非課税というべきである。
第4に、法人税法にいう収益事業であるためには、34の特掲された事業のいずれに当たるかを明示する必要がある。そこでは、当該事業はどのような内容、性質のものか、一般の事業と競合する事業かどうかを中心に、個別具体的に吟味されなければならない。法の組み立てからすれば、一般的な収益事業該当性の判断でとどめることはできないというべきである。
以上、ペット葬祭業に関する一連の判決には多くの法的疑問が含まれている。宗教界にとっても大きな問題が残されたといわざるを得ない。