公益法人の収益事業課税要件 ― ペット葬祭業判決を読み直す(1/2ページ)
同志社大教授 田中治氏
本稿では、公益法人(その中に宗教法人が含まれる)に対する法人税の課税について、収益事業に対する課税がなぜ、どのような要件の下でなされるべきか、その理由と限界は何かを検討する。なお筆者は、かつてこの問題を詳しく論じたことがある(「宗教法人のペット葬祭業の収益事業該当性」『税務事例』43巻5号48ページ、2011年)ので参照されたい。
法人税は所得課税の一類型であり、所得を課税対象とする。所得とは「もうけ」のことであり、一般に収益から費用を引いた利益を意味する。所得を得る典型的な法人は株式会社等の営利法人である。
なぜこのような営利法人に法人税を課すか、という理由として通例、法人擬制説の考え方が示される。すなわち、法人は個人(株主)の集合体であるから、法人の利益は個人に行き着くはずであり、法人税は、配分される個人の所得に対する課税の前取りであると説明する。
第1に、公益法人が営利法人と決定的に異なる点は、公益法人は営利を目的としない上、仮に一時的に所得(剰余金)が生じた場合でもそれを個人に分配しない、ということである。したがって、本来の事業(非収益事業)に課税をしないのは優遇措置でも特権でもなく、法人税の課税の論理から来る当然の制約にすぎない。
第2に、憲法上当然のことであるが、法人税は、宗教法人だけに税を課したり、課さなかったりする仕組みを採用していない。宗教法人の本来の事業(非収益事業)に対する非課税は、公益法人課税の論理に基づくものであって、何も宗教法人の利益を特に考慮して作ったものではないことに注意する必要がある。
この点、ペット葬祭業に関する地裁判決が、上記非課税の制度を「優遇措置」と解した上で、その根拠として、「宗教法人が非営利法人であることを求められ、しかも、そのことを担保するために所轄庁による監督に服している点が重視されていると解することができる」とするのは、疑問である。
この考え方は、法人税の論理を無視することに加えて、宗教法人法が宗教法人に対する規制立法であるかのように考える点で、関係法令を適切に解釈するものとはいえない。
第3に、法人税法は非収益事業と収益事業とを区別し、公益法人の非収益事業からの所得については非課税と定める(4条1項、7条)。収益事業の定義はそれほど明確ではなく、販売業、製造業その他の政令(法人税法施行令5条)で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいう。収益事業として、現行法上、34の事業が特掲的、限定的に掲げられている。
第4に、最高裁判決で一定の結論が出たということと、国会が関連の法律を作った、あるいは変えたということとは、その法的効果は全く異なる。とりわけ税法の領域では租税法律主義が憲法上の原則であり、租税に関する国民の権利や義務を左右するのは税法律のみである。
判決は、対立する当事者間の紛争に決着をつけるために裁判所が示した個別的判断であって、事実上の影響力はともかく、その法的効力は当事者間にしか及ばない。なお、判決において示される裁判所の理由づけには必ずしも十分とはいえないものもあり、時には裁判所が法解釈を誤る場合もある。
天台宗の宗教法人が、死亡したペットの飼い主から依頼を受けて葬儀、供養等の事業(ペット葬祭業)を行っていたところ、税務署長が当該ペット葬祭(葬儀、火葬)は請負業に、遺骨処理とその管理(納骨堂、墓地管理)は倉庫業に当たるなどとして、収益事業として課税処分を行った。これに対し、この宗教法人は、当該事業は宗教法人の本来的活動に当たり、非課税であるなどと主張したが、いずれの審級の裁判所においても、受け入れられなかった。
2008(平成20)年9月12日の最高裁判決は、問題の事業が請負業等に該当するか否かは、支払われた対価が、役務の対価なのか、当該事業が他の一般事業と競合するか否か、などを踏まえ、当該事業の目的、内容、態様等の諸事情を社会通念に照らして総合的に判断すべきだとしている。