若者たちのエイズ感染を防ぐ ― 宗教は生きる力に(2/2ページ)
ヘルスプロモーション推進センター(オフィスいわむろ)代表 岩室紳也氏
ただ、このように話すとコミュニケーション能力をどうつけさせるかといった短絡的な話になりがちです。一方でエイズなどの性の問題、いじめや自殺などのこころの問題、薬物やネットの問題についても、トラブルになる人とならない人の違いについての考察をあまりすることなく、もぐらたたき的に課題が顕在化した人や状況への対処ばかりが目立ちます。
LINEやインターネットを使っていてもトラブルにならない人は大勢います。その人たちはリアルな、人間同士の体験を重ねる中で、SNS等をどう使えばいいかを体得しています。仲間同士で「エイズって身近な問題だよね」と話すことができれば、予防行動につながるのではないでしょうか。
若者たちが抱える課題の根底には、関係性、自己肯定感、居場所の喪失があり、さらにそのベースにはコミュニケーション能力の問題があります(図)。若者たちへの啓発で気を付けたいのが、その話が若者たちとのコミュニケーションになっているかです。
彼らが聞いてくれる講演にするコツは、統計やトップダウンの話ではなく、話す人自身の経験談やその人と関係性がある方々の話を盛り込むことです。前述のお子さんを残して亡くなっていったご夫婦の話はインパクトがあるだけではなく身近に感じてもらえるようで、いろいろと考えてくれます。
HIV/AIDSを考える際に、同性愛といったセクシュアリティから、予防手段としてコンドームを教えるか否かなど、様々な価値観の衝突が繰り返されてきました。
一方で不勉強だった私は「カトリックはコンドームを否定している」といった誤解、先入観がありました。しかし、実際にカトリックのある会でHIV感染とゲイであることをカミングアウトした若者に対して、司教は「一緒に考えていきましょう」と受容する姿勢を取られました。何千年と続いてきた宗教は、人の生死のみならず性やセクシュアリティを含めて様々な観点から、対立する価値観に対してどう向き合えばいいかを教えてくれるのだと確信しました。
94年から21年間続いている「AIDS文化フォーラムin横浜」で私は「宗教とエイズ」というセッションを行っていますが、それを可能にしたのは実際に若者の性やエイズについて熱心に取り組んでいる浄土真宗本願寺派僧侶の古川潤哉さんとの出会いがあったからでした。9年前から古川さんと私が中心になり、仏教、キリスト教、一度はイスラムの宗教者の方にご登壇いただき、エイズや性に関する問題を考え続けています。
古川さんは昨年の報告書に「宗教を理屈として接したり学んだりすると、万人向けの表現であるため引っかかりが残りますが、本来、宗教は問いを持つ一人一人の問題。私の悩みに応え、私でも私としてここにある意義が必ずあるんだよということを示し、生きる力となるものだ」と書いています。
医者として「患者に学ぶ」ことを繰り返し経験させていただきましたが、これからは「宗教に学ぶ」機会も増やしたいと考えています。ぜひ正解を押し付けない立場の宗教家の皆さまのお力添えをお願いできればと思っています。