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現代日本社会と宗教教育 ― 人間存在の可能性への理解を(2/2ページ)

宗教文化教育推進センター長、北海道大名誉教授 土屋博氏

2014年6月20日

宗教教育をめぐるこうした事態は、特定の教団によって創設された学校で行われる教育、いわゆる宗派教育においても実際には変わらない。そこでは当然、教団固有の価値観の普及が図られるわけであるが、学校という教育制度によって媒介される以上、その価値観には常に公共的性格が求められざるをえない。学生たちの構成も現実には、その教団の熱心な信徒は少数であることが多いので、宗派教育といえどもカリキュラムの内容は、教団の教えや活動を歴史的に教える宗教知識教育にならざるをえない。教団の価値観もその中では、ある程度相対化される。その度合いは、高等教育になるほど増加していく。そもそも道徳教育やある種の情操教育に期待されているような「人間如何にあるべきか」を示す価値観の伝達という役割は、価値の多元化が進んでいく現代社会にはなじまないし、元来宗教教育にもなじまない。

もし宗教教育をあらためて宗教文化教育と言い換えるとすれば、宗教諸集団が説く多様な価値観を、観念的・規範的な形態ではなく、諸文化の中に根付いた具体的な形を媒介として考えることが可能になるのではないだろうか。それはさしあたり宗教知識教育に類似した形をとるが、宗教集団の生きた現実との接点をたえず重視していくことによって、単なる宗教知識教育を越えることを目指す。

ここでの「知識」はその都度の社会状況の変化に対応して、たえず更新されなければならない。そのためには、現実の宗教活動との接点を持ち続ける必要がある。従来の形態を越えて展開していく宗教現象を見逃すわけにはいかないのである。

宗教文化教育を学校制度の中へ組み入れるには至っていない現状において、このような考え方の普及を図るために発案されたのが宗教文化士認定制度であった。ある程度の実績を挙げた現在、次の課題は、資格取得者がその資格の内実を保持しつつ、それぞれの置かれた状況でそれに新たな意味を与えていくことであろう。そのためには、単なる資格更新という手続きを越えて、宗教文化教育推進センターが何らかのサポートを与え続けなければならないであろう。

宗教文化士が学校教育制度の中で特定の位置を占めていないということは、それだけ自由に社会へ浸透しうるということでもある。宗教文化士資格の実質的更新のために現在試みられているもしくは検討されている方法は、現代世界で生じている宗教情報を、解説付きで定期的に、インターネットを通して配信すること、いくつかの美術館・博物館・資料館などの利用に便宜を図ること、宗教関係の世界遺産を案内すること、各種の教材を作成し、その中にはいわゆるeラーニングをも含めること、必要に応じて公開講演会・シンポジウム等を開催すること、等々である。これらはいずれも受容者が主体的にアプローチするものであり、何らかのカリキュラムを通して受講を勧めるものではない。

これまでセンターの課題として考えられてきたことは、具体的な形をとった宗教文化の様相を通して、人間の営みに根差した宗教現象を見つめ直すことである。そこから生じる様々な問題関心を、共有しつつ広めていく運動を担うのが宗教文化士の役割となる。これは、行き詰まっている日本の宗教教育の本来の意義を再確認することにつながっていくのではないかと思われる。

個別の既成宗教集団によって創設・運営される学校で行われてきた宗派教育は、その成果の乏しさを嘆く前に、これまで積み重ねてきたそれぞれのノウハウを持ち寄り、広く現代社会の動き全体を視野に入れて、そのやり方を総合的に検討し直すことが必要ではないかと思われる。宗教文化教育推進センターは、声高に主張される道徳教育とは一線を画しながら、公共的性格を持った社会教育を目指して、そのための手段を蓄積し、提供し続けることになるであろう。

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