だれをも仏や神にする死生観 人は死んだらどこへ行けばいいのか 第3巻…佐藤弘夫著
日本にはあらゆる生物や無生物に霊性を見いだし、死者や動植物なども「共棲者」と見なす土壌があった。著者は西欧の「一神教」の持つ排他性と西欧流の文明化による戦争や環境破壊という弊害に触れ「行き過ぎた近代の人間中心主義を相対化する視点として、この列島で育まれてきた信仰世界に改めて注目してもいいのではないか」と述べる。
聖地や霊場の概略を記すだけではなくユニークな視座も提示する。「キリストの墓」や「釈迦の墓」が日本に存在する背景に、大陸から東に向かった果てに位置するという地理的特徴や、亡命者や入植者に寛容で国際性に満ちた気風があったこと指摘する。
草木供養塔から、新型コロナウイルスが供養され成仏する可能性を探る洞察も興味深い。前近代の日本ではウイルスや菌は人間に不利益をもたらす存在であったが「疫神」「疫病神」という言葉に表されるように、人間を超越した「神」であり、供養される対象だった。著者は先人の姿勢を踏まえ、新型コロナウイルスが地球を危機に追いやっている人類に警告を発する存在として捉える。
全国各地の寺社などの綿密な調査を基に日本人の神仏を生み出す心性を分析する本書は、今日の日本や世界の抱える諸問題を考える際のヒントにもなるだろう。
定価2310円、興山舎(電話03・5402・6601)刊。