親鸞と現代…武田龍精著
複雑に多様化した諸問題を抱える現代という時代の中で、親鸞浄土仏教をどう聞思していくのか。著者は①主体性を巡る問題②宗教多元時代における浄土教の脱構築③核兵器の時代における「生老病死」④宗教と現代宇宙論⑤宗教と科学を巡る浄土仏教思想の基本的課題⑥哲学者ホワイトヘッドの仏教批判・仏教観――の六つの論点から考究する。
核兵器を巡る問題については「仏教における『生老病死』は、三界・六道・五濁悪世の流転輪廻のサイクル内での『生老病死』が考えられて来たのであり、核兵器がもたらす地球上の全生命絶滅によりこの世に生まれてくることが不可能になってしまうような『生老病死』ではない」と指摘し「生老病死」の状況設定が「質的・根元的に変化してしまっている歴史的事実をわれわれ仏教者は容認しなければならない」と問題提起する。
こうした二重の「生老病死」の体系への姿勢として「阿弥陀如来の無縁なる大悲心から娑婆世界におろされた南無阿弥陀仏の回向」による帰命・帰依・礼拝を論じるが、付記された著者の「私の広島被爆体験記」の淡々とした記述に静かな迫力がこもる。
いずれの章の論点も浄土真宗に限らず宗教界全体の課題として様々な示唆を与えられる一冊だ。
定価3080円、永田文昌堂(電話075・371・6651)刊。