心理臨床における「あの世」のゆくえ…石川勇一・森岡正芳・鈴木康広・井上ウィマラ著
ダンマ・セラピーやユング心理学、心理臨床、アビダンマ仏教心理学といった、広く臨床心理学と呼ばれる分野の専門家として活躍する4人が「あの世」とは何かについて議論する。「この世」と「あの世」という世界観の意味するものが何なのかを考える手がかりが、それぞれの立場から語られる。
父の死を予告する夢や、死後も父と交流する夢を見た人は「あの世は確かに存在する」と信じ、「あの世」とは生者と死者の連続性を認知させ、生者は死者によって生かされていることを知らせるものだと言う。
「あの世はあるのか?」という問いへの答えは、現実的な有無の判断ではない。「あの世、他界は、人と世界の存在基盤にリアリティを与えるもの」、あるいは「意識と無意識、顕在意識と潜在意識の境界が弱まる」といった説明が示唆を与える。また「内と外、自己と他者の境界が弱まり、渾然一体の世界に突入する」といった表現を通して「あの世」の働きが見えてくる。
終末期を迎えた人が亡くなった人と出会い交流する「お迎え現象」も、それを幻想と決め付けず、正常な現象としてそのまま受け止め対応することの重要性を指摘する。そうすることから「あの世」のリアリティーが実感を伴って理解されるということだ。
定価3850円、春秋社(電話03・3255・9611)刊。