差別する宗教 インクルージョンの視座からの告発 鈴木文治著
人間の救済や幸福を追求するはずの宗教が差別や排除を生み出している実態を厳しく告発する。著者は障害児教育を専門とする教師として養護学校などに長年勤め、牧師としても障害や国籍、貧富などの違いを超えて共に生きる共生の教会「インクルーシブ・チャーチ」の運営に尽力。その経験をもとに宗教が抱える欺瞞に対する「激しい怒り」や「強い失望感」を述べる一方、宗教の意義を誠実に考究している。
キリスト教と仏教による戦争協力や部落差別、障害者差別などの歴史を具体的に解説。キリスト教界には信仰を個人の魂の問題として理解する「福音派」と、社会問題への取り組みを主張する「社会派」の立場があるが、障害児教育の専門家として「いと小さき者」らと歩んできた筆者にとって前者は当事者を取り巻く環境要因を無視した救済論、後者は主張ばかりで「自分たちは泥まみれになって一緒に生きることをしない」という「社会派観念論」と強く批判する。
では「宗教の復興への展望」とは何か。著者はどのような相手でも特別視せずに迎え入れ、互いが助け合う「共生の神学」や「苦しむ人たちと一緒に苦しむ教会、共に生きる教会」(インクルーシブ教会)を確立する必要性を丁寧な筆致で提唱する。
定価2530円、現代書館(電話03・3221・1321)刊。