大乗仏教と小乗蔑視 声聞と声聞乗とはどう見られてきたか 大竹晋著
本書の論点は「大乗仏教における小乗蔑視の展開を明らかにすること」にある。それによって著者は、インドに存在した声聞蔑視・声聞乗蔑視が、中国に至って偽経中に声聞批判・声聞乗批判を生み、それをそのまま受け入れた我が国に及んで「戒」を持たない日本式大乗仏教が形成されたことを確認する。
仏教は、様々な変容を遂げつつ世界に広まった。ブッダ入滅の後、弟子たちは教えを後世に正しく伝えるため数次の「結集」を経て経典編纂を進め、また教えの解釈を巡って保守派の上座部と革新的な大衆部への分裂に発展したと概観される。小乗・大乗の言葉は大乗経典の中で対比的に用いられ、初期仏教で聖者と考えられていた仏・独覚・声聞の三者のうち声聞と独覚を小乗と規定し、仏乗の優位性が支持を広げていった。我が国が受容した仏教は、中国で変容を遂げた大乗仏教の、さらに日本的な展開である。
著者は「声聞蔑視・声聞乗蔑視と声聞批判・声聞乗批判とは現代の日本においてもなお現実的な問題であり続けている」と指摘する。重要な意味は、日本式大乗仏教において「戒が不要視されている」点にあり、論の矛先は「出家者の妻帯と暴力――従軍を含む――とに繋がっていった」ことに照準が定められている。
定価3300円、国書刊行会(電話03・5970・7421)刊。