新発見書簡で読み解く 軍医森鷗外の素顔 後輩軍医佐藤恒丸に問う海外情勢 石川肇・林正子・松田利彦編
明治の文豪、森鷗外(1862~1922)が軍医の後輩、佐藤恒丸(1872~1954)に宛てた29通の書簡を現代語訳と併せて全文掲載した。つづられているのは主に陸軍内での人事や衛生に関連した事柄が多く、10歳も年下の佐藤に辞を低くして意見を求める文面には生真面目なほど日本の軍医制度発展に尽くそうとする鷗外の誠実さがにじむ。
書簡は1903年から18年にかけて書かれ、29通のうち24通が「鷗外全集」に未収録の新発見物。この間、佐藤はドイツに留学し、鷗外は陸軍軍医総監、陸軍省医務局長の要職に就いている。書簡は佐藤が最新の海外情勢を、鷗外が陸軍省内の動静を伝える役割があったようである。
本書は佐藤の経歴などを紹介した第1部、書簡全文を公開した第2部、『舞姫』や『高瀬舟』など鷗外の小説8作品を載せた第三部から構成する。これらを通じて「軍医森鷗外の小説を味わう」ことが目的という。
本書によると意外にも鷗外はドイツ留学を終えた佐藤を当時日本の保護国だった韓国に追いやった。背景に鷗外がライバルの小池正直・前医務局長の東大卒偏重人事に反発し、東大卒の佐藤が冷遇された可能性があると指摘する。こうした鷗外の知られざる側面に光を当てた研究の今後の進展も期待したい。
定価2750円、法藏館(電話075・343・0458)刊。