満洲国の双廟 ラストエンペラー溥儀と日本…嵯峨井建著
海外神社研究をライフワークとしてきた著者の渾身の一冊。「満洲国」に建てられた天照大神を祀る建国神廟と、戦没者を祀る建国忠霊廟の実態に、貴重資料や現地調査、関係者の証言、当時の中外日報をもとに迫る。
祭神の決定には紆余曲折があった。元々は戦没者だけを祀る構想だったが、清の皇帝や漢民族の神々の案も出た。天照大神は多数意見ではなかったが、溥儀側近の吉岡安直は一貫して天照大神を主張。吉岡は、独自の神道思想を説いた筧克彦の信奉者だったという。
ただ最終的な判断は、皇帝自身によると分析。「日本天皇陛下と精神一体」「日本人で満洲国に仇なす者は日本の天皇陛下に不忠」と述べ、関東軍から主導権を奪うためにも天皇の権威を利用しようとしていた溥儀は、天照大神の祭祀は有効だと考えたのだろう。
一方、日本の皇室は消極的だった。建設の決裁を求められた昭和天皇は、いつもと異なり執務の手を止めて説明を求めたという侍従の証言を聞き取っている。「中国の皇帝は由来天を祀るのが通常」と発言したともいう。
神社界との論争、神社局の関与、壮麗な廟建築、独自の祭祀・祭式・装束の制定、日満2カ国語の祭詞、奉祀官の組織も検証し、そして廃絶後の御神体の行方についてもかなり具体的に核心に迫っている。
定価4290円、芙蓉書房出版(電話03・3813・4466)刊。