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フランスにおけるセクト規制(1/2ページ)

山形大教授 中島宏氏

2024年9月3日 10時45分
なかしま・ひろし氏=1977年、宮崎県生まれ。一橋大大学院法学研究科博士課程退学。専門は憲法学、フランスにおける宗教規制研究、特にスカーフ・ブルカ規制。2008年の山形大人文学部講師を経て18年より現職。

2022年7月の安倍元首相銃撃事件以来、旧統一教会を巡るさまざまな問題が急速に社会・政治問題化した。また、それに伴ってカルト宗教対策の「先進国」として、フランスにおけるセクト(=カルト)規制のあり方にも関心が集まった。特に01年セクト規制法は、カルト宗教対策の有力モデルとして注目を集めたように思われる。

しかし、フランスにおけるセクト対策にも紆余曲折があり、むしろ近年は停滞気味の側面があったことは否めない。その背景には二つの理由がある。一つは、フランス政府の関心がイスラム原理主義対策に移ったこと。今一つは、セクト対策それ自体も修正を迫られる事情があったことである。以下、その大まかな経緯をご紹介したい。

セクト規制法の制定と運用

周知のようにフランスでは、1995年の第二次議会調査委員会報告書が173の団体をセクトとしてリストアップしたことで、官民一体となった反セクト運動が盛り上がることになる。ただ、このようなブラックリスト方式には批判も多く、既に99年の内相通達で「議会報告書は情報提供・提言に過ぎず、法的価値は無い」と断言されていた。現在、議会報告書とブラックリストは歴史的参照物に過ぎないとされており、フランスにセクトの公的なリストが存在するわけではない。

そこでセクト対策の根拠法として、2001年にセクト規制法が制定された。但し、セクト規制法にセクトそのものの定義が定められているわけではない。その意味で同法は特別法ではない。1995年議会報告書の結論も、特別法の制定を避けて現行法の厳格な運用を推奨するというものであった。

セクト規制法はあくまで一般法であり、その規制対象は、セクトはおろか宗教団体にも限定されておらず、法人・団体一般による違法行為に着目した規制となっている。例えば、「活動参加者の心理的・身体的服従状態を作出・維持・利用しようとする法人・団体」に対して刑法上の有罪判決が確定した場合、団体解散刑を宣告することができる。また、未成年者や病気・障害・妊娠などの無知・脆弱状態を利用して重大な損害を与える行為を犯罪化した。

とはいえ、セクト規制法の適用例が必ずしも多いわけではない。団体解散は、今までのところ適用例がない。無知・脆弱状態不法利用罪も、2004~09年に34件の適用例があったが、15年時点で年3件ほどとされる。適用例が少ない理由としては、信者が証言を決心する難しさや、服従状態ないし意図を立証する難しさなどが指摘されている。

このような状況にあるため、セクト規制法の提案者の一人、カトリーヌ・ピカールは同法を「シンボリックなもの」と評している。当然、予防的効果がないわけではないであろうし、今後適用例がないとも言い切れない。ただ、セクト規制法の運用が必ずしも容易ではないことがうかがわれる点には留意した方が良いのではないかと思われる。

監視機関の改組とセクト対策の転換

セクト規制法制定以降、議会報告書を根拠としたブラックリスト方式のセクト対策が改められていった。まず、1996年から設置されていたセクト監視機関が2002年に改組され、「関係省セクト的逸脱警戒対策本部」、通称ミヴィリュードが新設された。前身組織がセクトそのものに対する抑止機関だったのに対し、ミヴィリュードは「セクト的逸脱」という現象を監視・分析する機関という位置づけになっている。首相府直属の機関であり、本部長、事務長、事務局、執行委員会(各省代表者)、方針決定評議会(首相任命者)から構成される30人規模の組織であった。いわば、独立性の高い「庁」レベルの位置づけであった。

さらに05年の首相通達により、それまでのブラックリスト方式が明確に否定された。首相通達は、政府がある集団をセクトと認定し、その認定のみを根拠とするブラックリスト方式では、十分な法的根拠を確保することができないと指摘している。ミヴィリュードの設置と首相通達は、1990年代以降のフランスの反セクト対策を大きく転換させることになった。

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