9・11から20年(2/2ページ)
黒住教教主 黒住宗道氏
翌02年1月に、ローマ法王ヨハネ・パウロ二世の呼び掛けによりイタリアのアッシジで開催された「世界平和のための祈りの集い」の案内を受けたので、私は差し出がましいと思いながら行動を起こしました。「ローマ法王、初のモスク訪問」のニュースが世界を駆け巡ったのは01年の5月のことでした。ダマスカスのウマイヤ・モスクを訪問したヨハネ・パウロ二世法王を迎えたシリアのイスラーム最高権威者(グランド・ムフティ)のアフマド・クフタロ師を存じ上げていたので、「グランド・ムフティからのメッセージをローマ法王に届けたい」という手紙を第一秘書のファーロック・アクビック師に送ったのです。すると、数日後に「世界の宗教指導者および信者の方々が、手を携えて真剣に真の平和を目指して力を合わせられますように」とのクフタロ師の言葉が明記されたメールが届きました。この貴重なメッセージをどうやってローマ法王に届けようかと思いましたが、あっけなく実現の運びとなりました。ローマで私を待って下さっていたのは、当時バチカンで教皇庁教育次官であった元上智大学学長のヨセフ・ピタウ師で、食事の席でメッセージのことをお話しすると、「明日、私が教皇に届けましょう」と事も無げに言って下さったのです。
実は、17年8月に開催された「比叡山宗教サミット30周年記念 世界宗教者平和の祈りの集い」に招かれたアクビック師と再会して、クフタロ師のメッセージが記されたメールをお見せしました。熟読して師は当時をはっきり思い起こされたようで、メッセージがローマ法王に無事届けられたことを、改めて喜んで下さいました。
世界の諸宗教指導者の努力と連帯によって、短絡的な「イスラーム圏とキリスト教圏の文明の衝突」という誤解と不安は杞憂に終わりましたが、「テロとの戦い」の名のもとに展開された争いの歴史は泥沼化する一方です。
02年3月23日、金光町民会館(岡山県)を会場に、金光教平和活動センターとRNNの共同主催による公開講演会「救いの大地~アフガニスタン復興への歩み~」が、ペシャワール会の中村哲現地代表(当時)を講師に迎えて開催されました。米国による報復攻撃によりタリバン政権が崩壊し、暫定統治機構が樹立され、東京で復興支援会議が開催されて間もない頃のことで、行く末を案じる中村氏の次の言葉は、20年後の今も深く胸に刺さります。
・カブール陥落後、世界のメディアは一斉にブルカを脱いだ女性の姿を映して、タリバン政権からすべてが解放されたように伝え、世界各地からNGOが支援に駆けつけて活動し、東京復興支援会議で解決したように伝えているが、解放されたのは売春の自由、麻薬を作る自由で、無秩序の状態。タリバン時代の方が百倍マシで、現地は依然厳しい状態。
・少なくとも、この1世紀以上かけて確立されたアフガニスタンというアイデンティティは決して外国人が崩してはいけない。
・タリバン運動というのは、また復活するだろうと思う。ある意味でアフガン社会のエッセンスのような政権だったので、必ず何らかの形で復活すると思っている。
・今回の講演に招かれて私が最もうれしかったのは、いろいろな宗教を超えて、大切なものに向かって一致して取り組まれているということで、これがいま一番世界で求められているものではないかと思う。
心ひとつに、ともに祈り行動する宗教者であり続けたいと思っています。