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中世日本研究所研究プロジェクトについて(1/2ページ)

中世日本研究所研究室長 パトリシア・フィスター氏

2020年9月4日 11時47分
パトリシア・フィスター氏=米国オハイオ州出身。日本美術史専攻。国際日本文化研究センター名誉教授。主著に『尼門跡寺院の世界―皇女たちの信仰と御所文化』(共著)、『尼門跡と尼僧の美術』『近世の女性画家たち 美術とジェンダー』など。

中世日本研究所の女性仏教文化史研究センター(京都)では、近年、無外如大禅尼(1223~98)に焦点を当てた調査研究プロジェクトを行っている。如大尼は高名な中国僧、無学祖元(仏光国師、1226~86)に師事した鎌倉時代の尼僧である。無学祖元は如大尼を法脈継承の弟子として認め、頂相画とともに、自らの袈裟を譲った特筆すべき尼僧だった。その頂相画は残されていないが、無学祖元の如大尼への讃が『仏光国師語録』に書き記されている。

如大大師 請讃 景愛寺長老
入仏三昧魔王遠却、入魔境界仏亦不着、
藕糸竅裏恢拓乾坤、石火光中定奪皂白、
塗毒鼓声震大千、摩醯眼電光閃爍、
南北東西仏手驢脚、未後一句分付無着(筆者注・無着は如大の別呼称と思われる)

無外如大尼の若年の頃については詳らかでないが、現存する如大尼についての記述は後世になって書かれたもので、少なくとも1人、ないしは2人の別の尼僧が如大尼に関する物語に混在し、今に伝わっていると思われる。最も信頼できる史料は無学祖元の語録に記されたもの、もう一つの重要な資料は、現存はしていないが如大尼の頂相画に書かれていた絶海中津(佛智廣照国師、1334~1405)が書き残した拈香である。1398年に如大尼の百年遠忌が行われたことを証するもので、景愛寺の開山、無外如大禅尼へ捧げられた「景愛尼寺開基如大禅師百年忌拈香」である。

景愛尼寺開基如大禅師百年忌拈香
總持曾續少林芳。無著重輝佛日光。
争似吾師遺景愛。到今草木發天香。
某機辯縱横高提常照(無学祖元)心印。
知見廣大新開景愛靈場。
其門庭施設峭峻。其胸次波瀾汪洋。
取則雄峯而董叢席。同風徳山而置法堂。
落落玄機脱略窠曰。茫茫苦海甘作舟航。
用銕磨本分之草料。振末山巳墜之玄網。
以言遣言。●却喬梵鉢提之片舌。
以毒攻毒。爛盡舜若多神肝賜。
可謂行能稱解解能稱行。
行解相應。心外無法。法外無心。心法雙忘。
七十六季化權奄戢。三千刹界應化無方。
來無所従法無跡。昔不會生今不亡。
時移物換百年後。正體堂堂不覆藏。
更有摩醯頂門眼。一輪紅日上榑桑。              ●=旧字体の祝+土

この追悼文の中で、絶海中津は、禅の尼僧として、また仏法の師として如大尼を称賛し、彼女を模範的な4人の中国の尼僧(摠持、無著「妙總」、劉鐵磨、末山了然)と同じ高みに位置づけている。彼女はまた、男僧の禅の修行精神を積極的に維持したとして称賛され、最終的には男女の性を超越していたとされる。

無外如大禅尼が開山である京都の景愛寺は、女性のための修練と受戒のために創建された広大な寺院で、唐時代の百丈懷海禅師(720~814)の規律に基づいて厳格な規則を確立したと伝えられている。景愛寺のネットワークは徐々に拡大し、多い時には15以上の塔頭寺院と子院を擁していた。後に尼寺五山の中で最高位に位置付けられた景愛寺は、将軍により選ばれた高貴な女性の住持によって率いられ隆盛した。景愛寺は応仁の乱後の1498年に焼失し、再建されることはなかったが、京都の尼門跡寺院(大聖寺、宝鏡寺、宝慈院)が、景愛寺の法灯を今なお守り継いでいる。また、深い歴史的なつながりを持つ眞如寺(京都)や、松見寺(岐阜)も無外如大禅尼に関連する品や文書類を今も大切に保管している。

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