新型コロナ問題に対する韓国仏教界の対応(1/2ページ)
東洋大学井上円了研究センター客員研究員 佐藤厚氏
全世界に蔓延した新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)。韓国でも感染者数は多く、4月6日現在、感染者1万331人、死者192人に上る。感染拡大のきっかけはキリスト教団体・新天地イエス教会信者の集団感染であった。その後も別のキリスト教団体による集団感染が発生するなど、韓国ではコロナ問題とキリスト教の関係が密接である。このことは日本でも報道されているから知っている方も多いと思う。しかし他の宗教、例えば仏教界がコロナにどう対応しているかについては報道がないためによく分からない。本稿では韓国仏教の最大宗派・曹渓宗の活動を中心に、仏教界のコロナ対応を紹介したい。これはコロナが拡大途上にある日本の仏教界にも参考になると思われる。
韓国での感染者数は2月13日時点でわずか28人。文在寅大統領が「コロナは間もなく終息する見通し」と楽観的な見通しを発表していた。しかしその1週間後、新天地イエス教会信者による大量感染が明らかになると、感染者数の累計が104人(20日)、204人(21日)、433人(22日)と倍増を始めた。それに対し曹渓宗は20日、「緊急指示」を出して全国の寺院に法要の自制を促した。23日に大統領がコロナ危機警報を最大の「深刻」に引き上げて集会などの自制を要請すると、曹渓宗では全国の寺院に法要の中止を指示し山門を閉鎖した。以後、他の仏教宗派やカトリックなど他宗教でも礼拝などの集会を中止した。同時にコロナ発生の中心地域である大邱、慶尚北道に対する宗教界による支援も始まった。
感染者が千人に近づき、政府が大邱を含む地域を特別管理区域に指定した25日、宗教界では七大宗教(仏教、カトリック、プロテスタント、円仏教、儒教、天道教、民族宗教代表)で構成される韓国宗教人平和会議(KCRP)がコロナ拡散防止と協力に関する対国民メッセージを発表し、①政府の防疫体制への協力②コロナ終息への祈祷を呼びかけた。
感染者が5千人に近づいた3月2日、新天地イエス教開祖のイ・マンヒ氏が謝罪を行った。マスクも供給不足に陥り大統領が謝罪する事態になった。こうした中、6日に曹渓宗は信者向けの談話を発表し、①発生地域への支援②医療従事者への慰労③寺院への立ち入り中止と教団作成の祈祷書(後述)による家庭での祈祷を呼びかけた。
この日以後、1日当たりの感染者は次第に減少傾向にあったが、16日にはキリスト教・恩恵の川教会で集団感染が発生し国民の顰蹙を買った。一方、18日には韓国仏教界の約30宗派で構成される韓国仏教宗団協議会が、4月30日(陰暦4月8日)に行う予定だった恒例の釈迦誕生日の記念奉祝行事を1カ月間延期することを発表。これに加え4月30日から5月30日まで、協議会所属の約1万5千の寺院が宗派の別を超え、共同で祈祷精進を行うことを決議した。それ以後、感染者は100人前後を推移している。
このように宗教界は、一部のキリスト教団体を除き、宗教の違いを超え、集会の自制などを通して政府のコロナ対策に協力している。仏教界でも山門閉鎖、法要中止、釈迦誕生日の奉祝行事延期など、活動を停止して防疫に協力するほか、宗派を超えた祈祷精進を実施するなど共同戦線を張っている。このほか感染地域に対する募金活動や不足物品の寄付、さらには最前線で治療に当たっている医療関係者などに、栄養価の高い寺院料理を提供したり、疲労を癒やすための休憩型テンプルステイを準備するなど、まさに物心両面においてコロナ対策に尽力している。
韓国の仏教信者の宗教活動の中心は寺院での祈祷である。日本のように家に仏壇があるわけではないので、寺院が閉鎖されると信者は通常の活動ができなくなってしまう。そこでこうした信者に対する対応が必要となった。私が注目したものをいくつか紹介する。