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未来を語る寺院仏教へ ― 過疎地寺院問題≪11≫(1/2ページ)

北海道大大学院教授 櫻井義秀氏

2020年1月6日 16時35分
さくらい・よしひで氏=1961年、山形県生まれ。北海道大大学院文学研究科博士後期課程中退。文学博士。専門は宗教社会学。北星学園女子短期大専任講師、北海道大講師、助教授を経て、現在、同大大学院教授。著書・編著は『東北タイの開発と文化再編』『人口減少時代の宗教文化論』『カルトからの回復』(編著)、『しあわせの宗教学』(同)など多数。
檀家制度の危機とは何か

私が過疎地域の寺院調査を始めて十数年経つが、過疎と寺院という切り口に対して、問題の本質は人口減少ではなく、家族構造と生活様式の変化であると繰り返し述べてきた。

檀家が高齢化し、跡継ぎ世代が檀那寺との関係を維持しないことが深刻化しているが、これが檀家制度の崩壊ではない。日本人の生活が、生業や自営業によって地域で何代にもわたって生活していく時代から、世代ごとに移動し、そもそも結婚しない、子を持たない人が同世代の3分の1を超すに至って、檀家制度自体が生活に合わなくなっているのである。

もちろん、人の移動には経路や範囲があり、親と同居せずとも見守りながら檀那寺との関係を維持する子世代の事例はある。住職の働きかけ次第で檀徒が増える寺もある。しかし、父親の葬儀・法要をきっかけに故郷の寺院で日蓮宗の檀徒になった私であっても、檀徒は一代限り、私が父母の法要をできる限りということで最初から永代供養墓を選択している。

葬儀や法要のニーズは多死社会の時代にむしろ増えている。葬儀の形態や墓探しに悩む人も多い。墓石業者のホームページを見たり、葬送を考えるNPOの研修会に出たりしながら、終活で忙しい高齢者が増えていく。その時、なぜ寺院に足を運び相談する人が増えないのか。基本的に檀徒対応のメニューしかないからだろう。

一回限りの葬儀や法要を依頼したい人、墓守を依頼できないために家族墓や個人墓を持てない人はますます増えている。ネットの僧侶派遣や宗派不問の墓苑を持つ寺に任せるだけでよいのだろうか。

私が北海道、東北、中部北陸の普通の寺院を訪ね、集合墓や樹木葬墓地などで新檀家を増やした有名寺院などでインタビューしながら感じたことは、寺院の基礎は「葬式仏教」を徹底して檀信徒や利用者本位に行うことである。そこで経営基盤を確保してこそ、余力を地域活動に注げる。自身特別なことと思っていないが、檀徒を中心に地域の高齢者の見守りや青少年育成に力を注いできた住職は全国津々浦々にいるはずである。

2016年に『人口減少社会と寺院―ソーシャル・キャピタルの視座から』(法藏館)を川又俊則・鈴鹿大学教授と編纂した。その時にそこにある寺院(being)の良さを見直し、何かやる寺院(doing)だけに注目するべきではないと提言した。地域の信頼感や人間関係を構築する核となっている寺院のあり方こそ、寺院はソーシャルキャピタル(社会関係資本)であると言える。

逆の言い方をすると、地域のニーズや人々の求めと関係なく、寺院のサバイバルだけを論議しても人心が離れていくだけである。過疎と寺院仏教という問題設定から寺院本位であることを見透かされるようであってはならない。

慣習とされた宗教儀礼を見直す

宗教とソーシャルキャピタルに加えて、私が近年取り組んでいるのが、宗教とウェルビーイングの研究である。ウェルビーイングとは主観的幸福感と客観的な生活保障を合わせた概念である。「しあわせ」を味わえることと言い換えてもよい。

日本のウェルビーイング研究は従来、健康(医療)・経済状況(年金)・社会関係(家族・友人)・趣味(生きがい)と幸せ感との関わりを考えるものが多く、生活態度や価値観、信仰の有無から人の幸せを考えるという発想が乏しかった。その理由は、日本では無信仰・無宗教を自認する人が約7割を占め、学術的研究に「宗教」を入れ込むことがはばかられ、「スピリチュアリティ」と遠慮がちに表現したり、教育・医療・政治といった公的空間に宗教を持ち込まないと自主規制したりした社会背景があろう。

私が2年前に実施した全国で無差別に抽出した1200人対象の調査では、主観的幸福感が、法要の実施、祭礼への参加によって統計的に意味のあるレベルで増加することがわかった。日本人が宗教行為と意識しない正月の初詣や盆・彼岸の墓参り、先祖への報恩感謝の気持ちなども幸福感を増加させる。その意味は何かである。

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