学術調査は祭祀の妨げになるのか(1/2ページ)
成城大教授 外池昇氏
「百舌鳥・古市古墳群」の世界文化遺産への登録が今年7月6日に決定され、翌7日の朝刊各紙は一斉にそのことを取り上げた。
もちろんこれは突然の決定ではない。『読売新聞』はすでに5月14日付(夕刊)で、「古墳時代埋葬の伝統証明/『仁徳陵』世界遺産今夏に」との見出しで、国際記念物遺跡会議(イコモス)が国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)への登録勧告で、「『仁徳陵』をはじめとする『百舌鳥・古市古墳群』」について「傑出した古墳時代の埋葬の伝統と社会政治的構造を証明している」と、普遍的な価値を認めたことを報じている。
このように、この度の「百舌鳥・古市古墳群」の世界文化遺産への登録決定が、幾多の困難を乗り越えて達成された歓迎されるべき成果と位置付けられるのは、概ね異論のないところなのであろう。
しかしそこには、未だ議論が十分に尽くされていない点がありはしないであろうか。以下、気の付いたことを述べることにしたい。
この度の「百舌鳥・古市古墳群」の世界文化遺産への登録をめぐって最も特徴的なことは、そこに含まれる古墳の内の巨大古墳の多くが、わが国の文化財行政の根幹である「文化財保護法」の適用を受けていないことである。よく知られているように、それらの巨大古墳は、天皇の祖先の眠る陵墓として宮内庁によって管理されている。そのために立ち入りが禁止され、一般に言われるような学術調査もなされていないのである。陵墓であっても「文化財保護法」の適用を受けるのが筋と思われるのであるが、決してそうはなっていないのである。世界文化遺産への登録には、国内法による適切な保護管理が必須な筈であるが、これはいったいどうしたことであろうか。「文化財保護法」の第1条が「この法律は、文化財を保存し、且つ、その活用を図り、もつて国民の文化的向上に資するとともに、世界文化の進歩に貢献することを目的とする」というものであることを考えれば、その感はなお一層強くなるばかりである。
しかしそれには理由がある、と宮内庁は言うのである。宮内庁の説明を聞こう。津村啓介衆議院議員(国民民主党・無所属クラブ)による「宮内庁によって陵墓に治定された古墳に関する質問主意書」への内閣総理大臣による本年7月5日の答弁書から引く。実質的には宮内庁による見解とみてよいであろう。それは、「現に皇室において祭祀が継続して行われ、皇室と国民の追慕尊崇の対象となっていることから、静安と尊厳の保持が最も重要であると考えている」というものである。こう聞かされてしまえばもっともなようにも思われるのであるが、さてどうであろうか。
「祭祀が継続して行われ」ているというが、国宝に指定されている仏像の例や、国史跡に指定されている墓地の例はよく知られているところである。仏像等信仰の対象であれ亡骸・霊魂の眠る墓地であれ、「文化財保護法」によって保存・活用することは十分可能なのである。そうしてみればこの宮内庁の説明の眼目は皇室、つまりは天皇による祭祀がなされているからという点に尽きると言ってよい。