偏見を乗り越えるために(1/2ページ)
国際仏教婦人会理事・全日本仏教婦人連盟理事 丸山弘子氏
21世紀を迎えても仏教界は男性中心社会で、ジェンダー・バイアス(gender bias)が存在している状況の中、女性の立場で釈尊の教えを体現し、出家や在家、宗派、国籍を問わず、国際的な仏教婦人の交流を目指す国際仏教婦人会(International Ladies Association of Buddhism)が2009年に発足した。略称のILAB(アイラブ)は、“I Love”に掛けて人々に親しんでもらうためだ。
岡野鄰子会長(孝道教団副統理)はじめ、国際的な経験豊かな理事が、この10年間各宗派の特徴や世界の仏教文化など多彩なプログラムを企画してきたが、一番力点を置いたのは、日本の仏教文化の発信であった。まず自国のそれを紹介できてこその国際化だからである。例えば、当会の岡野鄰子会長は米国の大学に留学経験を持つ一方、幼い頃から日本舞踊や邦楽に親しみ、本年4月に国立小劇場でオリジナル邦楽曲「観音さま詣で」を披露したばかりである。
当会の特徴の一つは、活動は日本語と英語で行われている点だ。漢語からの仏教用語は難解なので、英語でいうと胸にすとんと落ちることもある。例えば、「諸行無常」は『平家物語』の一節と思い浮かべる人もいるが、“Every thing is changing”「すべて変化している」といえば、どうであろう。
5月11日に横浜の孝道山で国際仏教婦人会創設10周年を記念して、「偏見を乗り越えるために」をテーマにシンポジウムが開催された。
まず、戸松義晴師(浄土宗・全日本仏教会事務総長)の基調講演からスタートした。
師は『スッタニパータ』の「人は生まれによってバラモンになるのではなく、行為によってバラモンになる」という釈尊の言葉を引き仏教の平等思想を紹介した。続いて、法然上人の問答集である『一百四十五箇条問答』に「仏教に忌みという事なし」とあるように、法然上人の平等思想は、当時の社会通念である差別的な考え方と異なっていたと説明。さらに、師は本来「平等」を説く仏教がなぜ差別的になったのかと、差別戒名、ハンセン病、戦争協力、女性差別、民族問題を挙げ、仏教は容易に妥協し易い傾向にあり、軍国主義に迎合したと率直に語った。師のキャッチフレーズは「結果責任が伴わなくてはダメ」。全日本仏教会が、各審議会、各委員会に女性委員を2割登用した実績も強調。最後に、偏見を乗り越えるには、私たちの行動以外にない、思っていても変わらないと結んだ。
シンポジウムでは3人のゲストパネリストに登壇をお願いした。
南條了瑛師(浄土真宗本願寺派)はまず「十方衆生」を救う阿弥陀如来が御本尊で、偏見のない仏様であると説明。しかし、その仏様の御心を伝える教団が、差別法名、部落差別、法話中の差別発言などの差別をしてきたと語った。その反省から1986年より教団レベルで御同朋の社会をめざす運動を展開。現在、築地本願寺では、LGBT(性的少数者)のために「パートナーシップ仏前奉告式」を実施しているが、「結婚式」という名称を使わないなど課題も残る。結びに、「人間の差別心は無くすことはできません。しかし、差別そのものは人間が作った構造なので無くすことができます」と心に残る恩師の言葉を紹介した。