近代の墓地行政と宗教法人墓地 ― 近代日本の宗教≪4≫(2/2ページ)
愛媛大教授 竹内康博氏
第7条 凡ソ碑表ヲ建設セント欲スル者ハ所轄警察署ノ許可ヲ受クヘシ其許可ヲ得スシテ建設シタルモノハ之ヲ取除カシムヘシ
但墓地外ニ建設スルモノ亦之ニ準ス
第8条 此規則ヲ施行スル方法細則ハ警視総監、府知事(県令)ニ於テ便宜取設ケ内務「卿」ニ届出ツヘシ
この規則は、わが国における最初の体系的な墓地法である。ここで注目すべきは、墓地には管理者が置かれることになったことと、所轄警察署の取り締まりを受けるとされたことである。宗教団体法や宗教法人法が施行される前なので、寺院に法人格はなかったが、寺院墓地には管理者が置かれることになったので、大半の寺院墓地では住職がその任に当たったと思われる。なお、第4条では改葬についても、所轄警察署の許可で足りるとしているので、無縁墳墓の改葬についても、所轄警察署の許可があれば行うことができたわけであるが、その実際は不明である。
④墓地及埋葬取締規則施行細目標準(抄)
明治17年11月18日内務省乙第40号達 警視庁 府県
第1条 墓地ハ従前許可セラレタルモノニ限ル
但已ムヲ得サル事情アリテ之ヲ取広メ又ハ新設スル場合ニ於テハ地方庁ニ願出ヘシ
第2条 墓地ヲ新設スルハ国道県道鉄道大川ニ沿ハス人家ヲ隔ルコト凡ソ六十間以上ニシテ土地高燥飲用水ニ障ナキ地ヲ選ムヘシ
第3条 墓地ハ種族宗旨ヲ別タス其町村ニ本籍ヲ有シ若クハ其町村ニ於テ死シタルモノハ何人ニテモ之ニ葬ルコトヲ得其従前別段ノ慣習アルモノハ此限ニアラス
第9条 墓地火葬場ニハ必ス管理者ヲ置キ其姓名ハ区役所又ハ戸長役場ニ届ケ置クヘシ
この達により、墓地の拡張及び新設の許可権が地方庁に移譲された。そこで、各府県は、各々墓地の拡張及び新設に関する規則並びに警察上の取締規則を定めた。
また、この達は、墓地を原則として共葬墓地としたが、「従前別段ノ慣習アルモノハ此限ニアラス」としているので、この時点でも非共葬墓地(寺院墓地のように自宗派の檀信徒に限る墓地)を認めていたと考えられる。
この法律の制定については、昭和23年5月26、28日に開催された衆議院厚生委員会と5月27、28、31日に開催された参議院厚生委員会において審議・可決され、昭和23年5月31日法律第48号として公布、施行された。
以下は、その際の議案提出説明の要約である。
――これまで、墓地、納骨堂または火葬場の管理、埋葬、火葬等に関しては、「墓地及埋葬取締規則」、「墓地及埋葬取締規則に違背する者処分方」、「埋火葬の認許等に関する件」の規則によって規制されてきた。しかし、日本国憲法の施行にともない、必要な改廃の措置をとらなければならないことになり、前掲三つの規則を総合した本法律案を提出した――
審議の結果、現在の「墓地、埋葬等に関する法律」が制定された。以下は宗教法人墓地にとって特に重要と思われる条文である。
第10条 墓地、納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない。
第12条 墓地、納骨堂又は火葬場の経営者は、管理者を置き、管理者の本籍、住所及び氏名を、墓地、納骨堂又は火葬場所在地の市町村長に届け出なければならない。
第13条 墓地、納骨堂又は火葬場の管理者は、埋葬、埋蔵、収蔵又は火葬の求めを受けたときは、正当な理由がなければこれを拒んではならない。
宗教法人墓地においては、法人が墓地経営者となり、一般的には代表役員が管理者となって当該墓地の管理・運営にあたっている。
なお、第13条の「正当な理由」に関して、寺院側は異宗派の檀信徒からの埋葬蔵を拒むことはできないが、埋葬蔵を依頼する者は、寺院側が行う儀式・典礼を拒むことは許されないとされている(津地裁判決昭和38年6月21日)。