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人口減少・世俗化と寺院 ― 仏教の現代的あり方追求へ(1/2ページ)

北海道大大学院教授 櫻井義秀氏

2016年6月29日
さくらい・よしひで氏=1961年、山形県生まれ。北海道大大学院文学研究科博士課程中退。文学博士。同大学院文学研究科教授。専攻は宗教社会学、タイ地域研究。編・著書に『東北タイの開発僧―宗教と社会貢献』『タイ上座仏教と社会的包摂―ソーシャル・キャピタルとしての宗教』(編著)、『アジアの社会参加仏教―政教関係の視座から』(共編)など多数。
人口減少社会と寺院

この3月に川又俊則氏と共編で『人口減少社会と寺院―ソーシャル・キャピタルの視座から』(※)を刊行した。内容は、①人口減少社会と現代宗教、各宗派の対応を概説し、②浄土宗・浄土真宗・日蓮宗・曹洞宗の宗勢調査や地域の実態調査を含めた事例報告から構成されている。

地方の寺院では、住職・寺族ともに特段意識することもなく、地域社会の人間関係を豊かにする様々な取り組みをしている。寺院があることで人々は地域社会の歴史的記憶や人々のつながりを確認し、安心を得られる。

しかし、地方自治体において最盛期の人口を数分の1以下に減らした過疎地域では、後継者のめどがたたない寺院が大半を占める。わずか20年後には廃寺、檀家の移動、兼務寺院数や兼職住職数が激増する。個別寺院の努力では超えられない限界があること、その限界に至るまで「つながり」を維持し、高齢者には「居場所」を提供する寺院の機能を本書では明らかにした。

しかし、そのつながりと居場所は現世代限りになる可能性が高い。都市部の寺院は流入する新檀家によって檀家数を減らすことはないものの、寺院の維持管理費用や宗門からの「ご依頼」などをお願いできる〈寺院―檀信徒〉関係の維持が難しくなっている。

総じて地方と都市、地方でも郡部と街場において寺院の運営基盤に深刻な格差が生まれている。一般寺院が疲弊し賦課金に耐えられなくなれば、早晩宗門も運営費用を各寺院に依存しない体制を構築しなければならなくなるだろう。実にこの点がほとんど議論されていないように思われるのだが、いかがだろうか。

家族の個人化と檀家制の崩壊

人口減少社会は過疎化の延長で単純に「人口の減少」と考えられているが、私は「家族の個人化」にこそ注意を向けるべきだと主張したい。すなわち未婚化による生涯独身者の増加(2015年で男性は約20%、女性は約10%)、子世代と離れて暮らす夫婦では老老介護の後「お一人様化」となれば、葬儀は直葬もしくは家族葬、墓は永代供養墓や集合墓に向かわざるをえない。檀家制を維持するその地に代々住み続ける家族が少数派になっているのである。檀家であっても家墓を継承できない人々が増えている。

さらに言えば、「心の過疎化」「信仰の継承困難」「世俗化」が現代の寺院仏教が直面する困難として認識されてきたが、実は心の問題とばかりは言えないのである。先祖のおかげで生業を維持する人たちが減っている以上、先祖を敬い祀ることの形態と意味もまた変わっていかざるをえない。

「いやいや、弔いや死者の追悼に対するニーズは高く、東日本大震災後に僧侶や寺院が果たした役割は大きいし、終末期医療や緩和ケアにおいて『スピリチュアルケア』や『臨床宗教師』に対する期待も高いのではないか」という声が聞こえてきそうである。

その通り。ケアや癒やしへのニーズはむしろ高まっている。ただし、先祖祭祀ではなく死者供養なので、個人的満足を得られれば、必ずしも旧慣にとらわれない人々が増えている。また、この僧侶なら経を読んでほしいし、ご祈祷も受けたい。特定の寺院とつながりたい、という人々もいる。だからこそ僧侶は、檀家はもとより檀家外の市民に対して何ができるのか、納得のいく葬儀・法要を提供できるか、説法を聞かせられるか、行を体験させられるかといった諸点において僧侶としての力量を値踏みされる時代がくる。

現代仏教は先祖祭祀や檀家制に依拠した寺院運営から、仏教ならではの教えや死者供養・現世利益の諸儀礼によって信徒を集める崇敬者型の寺院に変わっていくのではないかという見通しを私は持っている。そうすると、どこに現代仏教寺院のモデルを求めれば良いのかということになるが、世界の仏教寺院と日本の諸宗教のあり方が参考になる。

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