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学生の宗教意識はどう変わったか ― 20年間の全国調査から(1/2ページ)

國學院大教授 井上順孝氏

2016年6月10日
いのうえ・のぶたか氏=1948年、鹿児島県生まれ。東京大大学院人文科学研究科博士課程中退。同大文学部助手、國學院大日本文化研究所助教授を経て、同教授。2002年に神道文化学部教授。13年から研究開発推進機構長兼任。国際宗教研究所・宗教情報リサーチセンター長。主な著書に『神道入門』『本当にわかる宗教学』『宗教社会学のすすめ』、編著に『映画で学ぶ現代宗教』『21世紀の宗教研究』など。
はじめに

2015年4月から6月にかけて実施した全国の学生宗教意識調査の結果が昨年末にまとまり、報告書も刊行された。この調査は奇しくもオウム真理教による地下鉄サリン事件が起こった1995年に開始された。2001年までは毎年実施したが、その後、5年に2回の頻度に変更し、昨年の調査で12回を数えた。

当初、國學院大学日本文化研究所の宗教教育プロジェクトで構想されていた調査であるが、93年に設立された「宗教と社会」学会に学生意識調査プロジェクトが設けられ、これと合同で実施することになった。いずれのプロジェクトも筆者が責任者であった。調査メンバーは平均して30人程度であり、調査対象とした大学は、毎回30~40校であった。得られた有効回答は99年を除いて4千~6千程度である。99年は特別に大掛かりに実施し、1万以上の回答を得ている。

昨年の調査をもって、この形態での意識調査には一応の区切りをつけることになった。そこで、昨年の第12回の結果をいくつか示した上で、この20年間に生じた変化のうち、特筆すべきものを紹介したい。

15年の調査結果から

昨年の第12回の調査は36の大学で実施され、5773の有効回答を得た。毎回質問しているのは、信仰を持っている割合、両親が宗教を持っている割合、初詣や墓参りに行く割合といったものである。これらについては、これまでと比べてさほど大きな変化は見られない。信仰を持っているという回答は全体で10・2%で、宗教系の大学を除いた国公立・一般の私立の大学(以下「非宗教系」とする)だけでみると7・7%であった。

信仰を持っている人の内訳をみると、一番多いのが仏教で37・2%であった。次いで神道24・1%、新宗教20・7%、キリスト教12・6%であった。しかし非宗教系だけで調べると、仏教45・5%、キリスト教18・5%、新宗教13・7%、神道11・6%となる。宗教系の大学の回答者が47・6%と半数近くを占めるので、現在の日本の大学生の全体での信仰について推定するなら、非宗教系で考えた方がいい。

非宗教系の学生のうち、信仰を持つ者の割合は7・7%であり、また仏教を信じる学生の割合は45・5%なので、非宗教系では3・5%の学生が仏教を信じている計算になる。宗教系の大学では少し割合が増えることが分かっており、詳しい計算は省くが、それを加味すると、仏教を信じる学生は4%程度と考えるのが妥当である。同様にすると、キリスト教は2%弱、新宗教と神道は1%程度と推定される。

ランダム調査ではないので、誤差は一定程度あるわけだが、12回の調査を重ねた結果からすると、この数字は現代の学生の信仰心を考える上でかなり正確な数値を示していると考えられる。

なお信仰の有無などについては、20年の変化としてみると、注目すべきことがいくつかある。これに関しては後述する。

神、仏、霊魂の存在を信じるかどうかについても、大きな変化はないが、前回12年の調査よりは増加傾向となった。神や霊魂の存在は2割強が「信じる」と答える。仏の存在を信じる割合はこれより数ポイント少ない。

10年の調査から設けたパワースポットの存在を信じるかどうかについては、「信じる」が14・8%、「どちらかといえば信じる」が39・4%であった。いずれも女性の方が数ポイント信じる割合が高い。同じ質問に対して、12年の調査では10年より減少していたが、今回は少し増えて10年よりわずかに多くなっている。パワースポットを信じる心は一定程度持続していると言える。

悩んだときに相談したい宗教家としては「僧侶」「牧師・神父・シスター」「神主」の順になった。僧侶が18・9%、牧師等が14・8%、神主が13・9%であった。ちなみに、ネット上で相談に回答してくれる人が11・6%、街の占い師が5・6%、テレビに登場するような霊能者が4・7%であった。ネット上での相談者は対面状況ではないが、それでも1割を上回っていて、牧師等や神主とそれほど大きな違いがない。この点は、宗教関係者は、その意味するところを深く考えるべきであろう。若い世代はネットに依存する割合が高まる一方だからである。

以前の調査と比較して注目すべきこと

15年の調査では以前の調査結果と比較することを目的とした項目がいくつかある。一つは東日本大震災に関わる問題である。12年の調査は震災の翌年に行われたもので、学生の記憶もまだ新しかったであろう。15年の調査は震災から4年後になる。何か変化があっただろうか。

「このような災害のときに、宗教や宗教家だからこそできる役割があると思いますか」という質問項目が、12年と15年に設けられていた。「必ずある」と答えた人は12年は20・6%であったが、これが15年には10・4%と、ほぼ半減した。「いくらかある」はあまり変わらない。また宗教家への期待を示す割合は、両年とも宗教系大学の学生の方が高い。

ただし、こうした災害が起こったときの宗教家や宗教施設の役割についての質問を内容ごとに見ていくと、避難場所の提供や心のケアなどに〇印を付けた学生は5割前後の割合で大きな変化はない。社会的活動に対しては一定の期待が持続している。

もう一つ、12年の調査結果と比較しようとした事柄がある。それはイスラム教に対する意識の変化である。イスラム教やイスラム教徒(ムスリム)との接点は、まだ乏しい。「日本にイスラム教徒の友人がいる」という人は3・6%であるし、「近所にイスラム教徒が住んでいる」という人は2・0%である。

モスクは日本全国に80カ所ほどあるとはいえ、それと分からないものもある。このことがいくらか関係するかもしれないが、「近所にイスラム寺院(モスク)がある」という人は0・8%にすぎない。

注目すべきはモスクが建つことへの感情の変化である。「モスク(イスラム寺院)が近所にできることになったとするとあなたは不安を感じますか」という質問に対し、「不安は感じない」という選択肢を選んだ学生は、12年は52・7%であったが、今回は36・4%であった。「不安を感じない」という人が16ポイント以上減っているということである。

他方「かなり不安を感じる」を選んだ学生は12年の13・7%から今回は21・8%になり、8ポイントほど増えている。実際には大半の学生が身近にモスクがあるわけでないし、イスラム教徒の知り合いがいるわけでもない。この数値の変化にはIS(イスラミック・ステート)をはじめとする、イスラム教過激派によるテロ事件の報道が影響している可能性が大きい。

あと一つ、靖国問題に関する意識の変化を紹介したい。これは10年前の05年に行った同じ質問の結果との比較になった。「あなたは首相が靖国神社を参拝することをどう思いますか」という質問があったが、肯定的な意見が増えている。「必ず参拝すべきである」が、05年の8・5%から今回は12・6%になった。逆に「参拝してはいけない」は、7・6%から3・2%に減った。他に「個人的な信仰なら参拝してもいい」「参拝しない方がいい」という選択肢もあるが、明らかに首相の参拝に対し肯定的な意見が増え、否定的意見が減っている。

靖国神社という宗教施設とは別に、特定の宗教とかかわりがなく、誰もが追悼できる「国立の新しい追悼施設」を作るべきという案への回答も興味深い。「あったほうがいい」「あってもいい」という肯定的回答が、今回は68・0%で、05年より10ポイント近く増えているのである。

靖国参拝へは少し肯定的になっているが、新しい追悼施設に対しても肯定的になっていることは、若い世代の意識の変化として、きちんと見据えておくべきことと考える。やや愛国的になっているものの、排他的になっているわけではないとも解釈できそうである。

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