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峨山さまと禅文化 ― 世阿弥に禅的精神継承(1/2ページ)

曹洞宗善寳寺住職 五十嵐卓三氏

2015年10月30日
いがらし・たくぞう氏=1931年、山形県鶴岡市生まれ。駒沢大大学院修士課程修了。曹洞宗教化研修所研修員、京都大特別研修員、曹洞宗研究員などを務める。『東と西の出会い 禅とキリスト教の不思議な軌跡』(さんまあ出版)、『道元思想の本質 道元禅師の垂語参究』『瑩山思想の本質 瑩山禅師の垂語参究』(国書刊行会)など著書多数。
■初めに―文化と文明

本当に若い頃、文化という言葉は「文明開化」の略語だと思っていた。しかし、やがて文化と文明はその意味に違いがあることを知った。もっとも日本には文明・文化という年号があることは周知の通りである。文化といい、文明というと人智が開けていく様子についての意味を表現していると理解されている。基本的にはその通りであるが、ヨーロッパ的な表現を借りると少しその意味合いが異なっているように思える。

ラテン語から発した文化・文明の語源的な意味には若干の違いがある。文化(culture)には「耕す=cultivate」という人間の基本的な行動が含まれている。一方、文明(civilization)には「市民の=civil」という社会的潮流の現象が感じられる。例えば、食文化といえば私たちの大地からの恵みを感じられるが、テレビやスマホといえば、いわゆる機械文明の所産であるといってよい。

端的にいって、文化と文明は相即しながら私たちの今日的生活を潤してくれているというべきである。そこで、禅文化とは何かを考えてみたい。

■禅と文化

思うに、禅と日本文化という観点から欧米に発信した最初の人は鈴木大拙博士であろう。著書『禅と日本文化』が日本で最初に出版されたのは昭和13年(イギリスとアメリカでは2年前に出版)であった。その中で、博士は「禅以外の仏教各派が日本文化に及ぼした影響の範囲は、殆ど日本人の宗教的方面に限られたようだが、獨り禅は此の範囲を逸脱した。是は意義深い事実である。禅は国民の文化生活のあらゆる層の中へ深く及んでいる」と述べているように、禅はインド・中国・韓国、日本へと広がり、それぞれの進展を見せている。まず、仏教の発祥の大地であるインドの禅からその文化的な意味合いを考えてみる。

■インドの禅

インドの禅というよりも仏法の出発点である「諸行無常、諸法無我、寂滅為楽」の三法印を示された釈尊の菩提樹の坐禅のお姿(坐相)は仏教発展の基本であり、禅のスピリットを表現している。後世に至って釈尊のお姿は佛陀として尊崇され、殊に禅の実践を宗旨とする禅宗各派は聖僧さまとして禅林・禅堂の中心に位を安んじている。インドに誕生した禅の文化である。佛陀は「覺者」と称され、そのお姿はDhyāna、すなわち「静慮=静かに慮る」=寂静の中の沈思の全体像に表現され、東洋の一大文化を形成することになった。明らかに佛陀のお姿は仏教信仰の過去・現在・未来と伝承されて来た仏教信仰の原点である。それはミャンマー・タイ・ベトナム・中国・韓国等の仏教国に継承されている信仰であり、文化である。それでは禅を実践的信仰として受容した中国の禅ではどのように展開したであろうか。

■中国の禅

『慧可断臂の図』が物語っているように、また達磨さまが将来した禅は「面壁九年」の禅話が示す坐の実践であり、坐相としての文化が忠実に伝えられていることを示唆している。しかし、六祖慧能さまに至って中国的展開が顕著になる。六祖さまに二人の勝れた弟子がおられた。南岳懐譲さま(677~744)と石頭希遷さま(700~790)である。

周知のように、前者の流れは公案禅といわれるように、千七百則に及ぶ祖師たちの禅的境涯を伝えている禅グループとして飛躍し、一方に黙照禅と言われる「坐」を実践主体とする禅グループの進展となった。この両者に共通するものがあった。行住坐臥の生活の規範とする『禅苑清規』の実践である。それは広大な中国の大地に培われた教育的・倫理的生活禅であり、この禅の実践が出家という目的にして共同的生活に重きを置いたのである。すなわち、禅的な活動は出家的な環境を形成して、中国における知的・文化的世界を創出したのである。まさに、この二つの禅の流れが13世紀に至って、日本の文化に大きな影響を与えることになる。臨済各派と曹洞宗、二宗の到来である。

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