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「集団的自衛権」巡る動きに危惧 ―「全世界」に対象地域が拡大(1/2ページ)

評論家 孫崎享氏

2014年5月14日
まごさき・うける氏=1943年生まれ。東京大法学部中退後、外務省入省。イギリス、アメリカ、ソ連、イラク、カナダ勤務を経て、ウズベキスタン大使、イラン大使、防衛大教授を歴任。著書に『日本の国境問題』(ちくま新書)、『日米同盟の正体』(講談社現代新書)など多数。

1月24日、安倍首相は施政方針演説で、「集団的自衛権行使に関しては有識者会議“安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会”の報告後に、政府として“対応を検討する”」と述べた。

その後有識者の会合も進展し、安倍首相は2月25日、首相官邸で公明党の山口代表と会談し、集団的自衛権の行使容認の問題について、政府の有識者懇談会の報告書がまとまる4月以降に、与党で協議する意向を伝えた。

こうして、集団的自衛権を巡る動きが着々と進んでいる。

今日、日本の主要政治課題の原発、TPP、秘密保護法等ほとんどの問題が核心への真摯な議論がなされることなく、詭弁と争点隠しで進められているように、集団的自衛権もまた、詭弁で進められている。

集団的自衛権の推進者が指摘する理由に次の二つがある。
①中国の軍事大国化が進み、海洋進出が活発になる。尖閣諸島の防衛を含め、米軍にますます依存しなければならない。
②日米同盟は日本の基軸である。日本は米国に一方的に守ってもらっているので、日本も軍事的貢献をしなければならない。

この代表的見解は、小泉元首相が2004年6月27日のNHK討論番組で行った論であり、彼は「日本を守るために一緒に戦っている米軍が攻撃された時に、集団的自衛権を行使できないのはおかしい。憲法を改正して、日本が攻撃された場合には米国と一緒に行動できるような形にすべきだ」と述べた。

これらの議論は一見、何となくもっともらしい。

でも詭弁の部類に属する。

実は日本防衛のためには日米安保条約があり、何も新たに集団的自衛権を設ける必要はない。

この条約の第5条は「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する」と規定されている。

しばしば、「米国は一方的に日本を守り、日本が何ら貢献していない」との論があるがこれは正しくない。「日本を守るために一緒に戦っている米軍が攻撃された時には日本は行動をとること」は条約上の義務になっている。

では何故、集団的自衛権を認める必要があるか。

それは安保条約と比較すれば分かる。

安保条約には二つの縛りがある。

一つは「日本国の施政の下にある領域」という縛りである。

今一つは「いずれか一方に対する武力攻撃があった時」と限定していることである。つまり、集団的自衛権では、対象となる地域を「日本国の施政の下にある領域」から「全世界」に拡大することにある。

2013年10月16日、時事通信は次のように報じている。

「政府の『安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会』座長代理の北岡伸一国際大学長は集団的自衛権の行使などを可能にした場合の自衛隊の活動範囲について『地球の裏側で行動することは論理的にはあり得る』と述べた」

なぜ地球の裏側に行くか。米国に要請されるからである。

今一つどのような時に集団的自衛権が行使されるかを考えてみたい。

安保条約では「いずれか一方に対する武力攻撃があった時」と限定している。しかし集団的自衛権では「国際的安全保障環境の改善のため」等の理由が指摘される。つまり「相手の攻撃」の存在が必ずしも前提となっていない。この点、あたかも集団的自衛権は国連憲章で認められた権利であるかのような説明がなされるが、国連憲章の理念とも異なる。国連憲章は第51条で「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」と集団的自衛権を認めているが、ここでも「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合」に限定している。

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