曹洞宗と真宗高田派 ― 宗勢調査や講活動からみた実態 ― 過疎地寺院問題≪4≫(2/2ページ)
鈴鹿大・鈴鹿大短期大学部副学長 川又俊則氏
先祖供養と寺檀関係、墓地に関する考察結果を示そう。東北、関東、甲信越は7割以上が「墓地のみ」、北海道6割、九州・沖縄2割が「納骨堂のみ」、「いずれも所有していない」は近畿や四国で3割以上など、墓地の地域的多様性が示された。墓地需要で新檀信徒を獲得した寺院もあった(とくに非過疎、高収入)。他の民間調査を含め、現代日本の人びとは、墓参の習慣は維持され、地域的差異はあるものの、寺院と檀信徒を墓地・納骨堂が結び付けていることが確認された。ただし、今後、「墓じまい」や無縁墓などで、どう向き合うかが課題となる。
私自身は教化に注目し、曹洞宗で代表的な坐禅会や梅花講の実態などを分析した。坐禅会は開催寺院が4分の1にとどまる。30年ほど前に「坐禅を基盤とした教化をすすめる運動」などもあり開催割合が上昇したが、その後は低下した。梅花講は3割の寺院で開催し、参加者の教化に役立つが、9割が60歳以上だった。年代別教化団体(子ども会や青年会)の結成率は極めて低調で、最も高い婦人会でも1割程度にとどまった。他方、檀信徒は僧侶の法話を希求し、30歳代から60歳代までの僧侶は、通夜・葬儀(9割)あるいは年回法要(8割)で法話を実施している。ただ、他の催しなどでの法話は4割にとどまる。檀信徒外への発信も必要だろう。
曹洞宗以外を含めて第1章で論じた相澤秀生は次のように述べた。浄土真宗本願寺派(約1万カ寺)と曹洞宗は全国網羅型、真宗大谷派(約9千カ寺)・浄土宗(約7千カ寺)・日蓮宗(約5千カ寺)は地方集約型であり、曹洞宗は過疎地域に最も多く立地している。つまり、曹洞宗は他派に先駆けて過疎化の影響を受けることが明白であり、本書の知見は、他派や他宗教でも参考になると思われる。
(伊勢)神宮のある三重県は、県内各地に多数の神社がある。宗教法人数で見ると(令和元年5月現在)、神社本庁所属の神道系法人(神社)は822ある。これに対し、仏教系法人(寺院)は2347もある。中でも最も多いのは曹洞宗で438、以下、真宗高田派403、浄土宗300、真宗大谷派213、天台真盛宗207、浄土真宗本願寺派195と続く。
寺院は宗派ごと偏在して立地している。例えば、浄土真宗本願寺派や真宗大谷派は、四日市市、桑名市、いなべ市など北勢地域に集中する。真宗高田派は本山の専修寺がある津市に半数近く、隣接する鈴鹿市や松阪市、亀山市、そして四日市市の5市合算で9割以上を占める。浄土宗は松阪市や伊賀市に多く、天台真盛宗の過半数は津市にある。臨済宗妙心寺派(113)は、消滅可能性都市の南伊勢町に多く立地し(28、続く市町は津市で11)、曹洞宗は松阪市や津市にも多いが、消滅可能性都市の熊野市、伊勢市、紀北町、鳥羽市や志摩市など沿岸部にも多く立地する。他方、天理教も全県に立地し(373)、キリスト教は都市部にある(59)。
真宗において、浄土真宗本願寺派、真宗大谷派に続く寺院数を誇る真宗高田派の3分の2は三重県に集中している。そして、県内の真宗高田派寺院は、先に述べたとおり、消滅可能性都市以外の市に偏在している。本山専修寺の御影堂と如来堂が2年前に国宝認定されると、本山は年中行事などで活況を呈した。毎年1月9日~16日に行われる報恩講には、多数の高田派僧侶・県内外の門徒が集まる。私自身は、平成後期に初めて専修寺の報恩講に参詣した。日祝は多かったが、平日早朝などはごくわずかの参詣者だった。整備された門前町は「インスタ映え」する街並みだが、昭和後期に報告された記事・写真などと比べると、現在の参詣状況とは全く異なっていた。
ただし、拙編著(『人口減少社会と寺院』櫻井義秀と共編、法藏館)で、鈴鹿市で七里講(毎月4日に当番寺院で勤行し、15日に本山参詣する)を継続する熱心な門徒がいる事実を述べたことは改めて指摘しておきたい。いまだに、講による教化活動が活発な伝統仏教は、真宗だからこそと言えるかもしれない。県内には増進講(津市)、聞法講(津市)、念仏大講(鈴鹿市)など現在も続く講があり、そのいくつかの行事を見学してきた。自らが持つ信仰を大事にし、平日午前でも法要に集い続ける門徒が平成後期の時代にまだいる。だが、都市部にあるこれらの講組織でも、受け継ぐ次世代は近居せず、関係者は現状維持に汲々としていた。私は「臨界点」を迎えているこのような人びとのソフトランディングを模索している。