曹洞宗と真宗高田派 ― 宗勢調査や講活動からみた実態 ― 過疎地寺院問題≪4≫(1/2ページ)
鈴鹿大・鈴鹿大短期大学部副学長 川又俊則氏
三重県在住15年目となる私は、県内外でフィールドワークを続けてきた。寺院や教会の維持が困難な場合、宗教者の兼務、宗教者無しの運営、他との統合、廃止いずれかの選択が考えられる。兼務や宗教者無しの運営は、檀信徒や信者らが信仰的に鍛えられていることが前提される。複数教会の牧師・信徒らによる「共同牧会」や、教会統合の例は、他宗教でも参考になる。
今年7月に刊行した『岐路に立つ仏教寺院』(法藏館、相澤秀生との共編)は、日本仏教で最も寺院数が多い曹洞宗が実施した「宗勢総合調査」をもとにした論文集である。2017年刊行の『曹洞宗宗勢総合調査報告書』は単純集計を中心にまとめた。本書の執筆陣はこの調査のメンバーである。寺院や住職の実態・意識・行動について、各自で関心あるテーマを掘り下げようとした。地域ブロックや過疎・非過疎、本務・兼務、収入3区分、年代などの観点で分析した。考察に際し、質問紙の自由記述や各執筆者が行ってきた質的調査の資料などで補完した。
曹洞宗の寺院数は1965年(第1回宗勢調査)で1万4786カ寺だった。50年後の2015年(今回調査)は1万4533カ寺。差し引き253カ寺の減少である。単純計算で1年に約5カ寺減少していることになる。日本ではこの間、三大都市圏などへの社会移動や、超高齢少子化、人口減少と変動している。その中で寺院数がほぼ維持できたということは、「昭和一桁世代」(80歳代前半)や「団塊の世代」(60歳代後半)の継承により、寺檀関係が再生産できていたからとも考えられる。だが、今後はどうなるだろうか。
本書の知見を、5点に絞って述べよう。
まず、寺院の経済格差が明白となった。寺院収入を高・中・低に3区分したところ、住職が専業できると見なせる1千万円超の高収入寺院は、全体の18%に過ぎなかったが、それでも10年前(前回調査)から5ポイント増加した。他方、専業が不可能と考えられる500万円未満の低収入寺院は55%と寺院全体の過半数もあった。二極化傾向と見なせよう。また、関東以北の北・東日本で高収入寺院が多く、西日本では低収入寺院が多いなど、地域差が見られた。
次に寺院区分の差異が示された。住職がある寺院の代表役員に就任している本務寺院は全体の75%(前回から3ポイント減)だが、兼務寺院は22%、無住寺院は2%ある。兼務は近畿、北陸、東海(三重県も約4割)など、無住は北陸、九州・沖縄、甲信越などで全国割合より高い。兼務・無住寺院はほとんどが低収入寺院だった。年回法要を1回以上しているところは兼務7割、無住6割あり、兼務住職や総代・世話人など、限られた人員で対応していた。約8割は兼務を続けたいという意識を持つが、使命感だけでは続けられないだろう。
さらに、過疎地寺院(過疎地域自立促進特別措置法が適用される自治体・区域にある寺院)の課題や困難が示された。過疎地寺院は全体の3割を占め(前回から5ポイント増)、北海道、東北、中国は全県で過疎地寺院割合が平均より高かった。非過疎寺院は本務が、過疎地寺院は兼務・無住の割合が高かった。尋ねた恒例法要13のうち、盂蘭盆会や大般若会など九つは過疎地寺院の実施割合が非過疎寺院より高く、自由記述からは、過疎地に居住する檀信徒にとって菩提寺がかけがえのない存在であることも示されていた。