寺院消滅から寺院蘇生へ ― 過疎地寺院問題≪1≫(2/2ページ)
浄土宗正覚寺副住職・良いお寺研究会代表理事 鵜飼秀徳氏
しかし、もはやそうは言っていられない状況である。檀家制度は、大都市では完全に瓦解した。画期は、都市寺院が社会のニーズを受ける形で「無宗教式の葬送(永代供養)」に切り替えたことである。宗教を問わずに広く集める永代供養の広がりは檀家制度だけではなく、宗派仏教の枠組みも壊しにかかる。あくまでも私の推測だが、寺院消滅の次は「宗派消滅」を迎えるのではないか。
ところで、寺院消滅を騒いでいるだけでは「机上の論」になってしまう。「現実」がそろそろ共有されつつある中で、対応策を議論し、推進していく時機にきていると思う。
まず、最優先課題は伽藍の維持である。伽藍が朽ちてしまえば、寺院再生は限りなく不可能になる。空き寺のまま放置すれば、10年を経ずに青空寺院と化すであろう。そのため、寺院の管理者が必要になる。
私は寺の護持は必ずしも、僧籍を持った住職である必要がないと考えている。たとえば、檀信徒が持ち回りで管理してもよいだろうし、地域の集会所として利用することも悪くないだろう。婦人会のヨガ教室の会場として利用するのもアリだ。
しかし、私が最も期待するのは、ベンチャー企業にサテライトオフィスやコワーキングスペースとして、地方の寺院を活用してもらうことである。たとえばICT(情報通信技術)関連やクリエイティブ産業は東京にオフィスを構えずとも、業務にさほど支障はでない。無住寺院を洒落たオフィス空間に改装し、ネット環境などを整えるのは、さほど難しいことではない。
似たような先行例がある。徳島県の山間部にある神山町では近年、古民家の空き家を利用し、サテライトオフィスの誘致に成功しているのだ。東京などの16社がサテライトオフィスを置くほか、クリエーターや起業家が多数、移住してきているという。神山町は「創造的過疎」と呼ばれ、注目を集めている。
地方の寺を企業に無料で、もしくは安価で提供すれば、企業にとっても固定費や税金などのコストカットになる。自然環境に恵まれた場所であれば、そこで働く人々にとって精神衛生上悪いことではないし、寺院は格好の「発想空間」になれるはずだ。寺宝の盗難などの防犯の問題も解決できる。伽藍さえ維持できれば、地域の宗教施設としての機能は十分果たせるであろう。どこかの宗門が先陣を切って、空き寺の企業誘致策を打ち出さないものか。
じつは、こうしたアイデアを具現化するべく私は昨年、一般社団法人「良いお寺研究会」を立ち上げた。仏教界と一般企業・行政とをマッチングさせ、寺院消滅を最小限に食い止めるのが目的である。これらは宗門や個々の寺の自助努力では難しいし、国や行政には政教分離の壁があって直接的に寺院に税金を投入することは、これまた現実的ではない。
私は『寺院消滅』出版以来、あらゆる可能性を模索するなかで、企業の支援なくして仏教興隆は不可能だという確信を持つに至った。私どもがいま、アライアンスを組んでいる凸版印刷とは、CSV(社会的課題の解決と、経済的利益の両立)という考え方の下、様々な取り組みを実施している。具体的な成果はこれからだが、とにかく「賽は投げた」。「寺院消滅」から「寺院蘇生」のステージに移るべく、多くの方々に力を貸していただければ幸いである。